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愛知県出身。女性。血液型O型。 リおンさんのブログ ブログ http //profile.ameba.jp/syky3176/ ピグのカッコがスゴイことが多いようですね。
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桜蜥蜴 さざなみ サジ 雑草 サバ S@ぼテン サンタサン ジエ ジェネシス 7じおき 459 しゃけ しゃとー 瞬速 しふたん しぶちょー しろもの すみと すんぽー&aidon セイ ぜんとれ そうる そらまめ
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寝所で休息を取っていたスノウは扉を叩かれる音に目を覚ました。続いて焦燥に染まった声。 「お休みのところ大変失礼いたしますスノウドロップ様、街が、街に火がッ!!」 飛び起きて外に出るとそこには顔面蒼白の兵士が立ち竦んでいた。彼の背後の窓の中には赤と黄色の光が夜の闇の輪郭を浮き上がらせていた。窓を開けると外の喧騒と熱気そして混乱が突風にあおられて室内に流れ込んだ。町の各所から噴煙が立ち上がり夜の帳を焦がしている。 「スノウ!!」 同じように状況を悟った仲間たちに呼ばれスノウは我に返った。 「げ、現在マルコ様が司令部におられます。どうか合流して、この町を救ってください」 兵士の哀願に一行は力強く頷いた。 司令部に着くとマルコが謎の襲撃者と戦いっていた。一行は速やかにそれを排除すると彼から状況の説明を受けた。幸いなことに練度は高くなく一行の敵ではなかった。 「どうやら、現在プロキオンは自由都市同盟の襲撃を受けているようだ」 荒い息を整えながらマルコは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。 「だが、情報が圧倒的に不足している。事の詳細は私にもまだつかめていない。クソッ、どうしたら……」 そこにジェイクが駆けつけてきた。 「お待たせしました」 全力疾走してきたのか額には珠の汗を浮いていた。 「遅くなりました申し訳ありません」 荒く肩を上下するその姿にいつもの飄々とした余裕はない。 「クソッ。俺は間諜失格だ、都市同盟が何かを仕掛けてくるのは分かっていたのに」 忸怩たるものを滲ませながら彼は吐き捨てた。 「慣れない肉体労働で消耗して……ついさっきまでグースカ寝ていた!!なんて無様だ」 「ん、まあ仕方ない」 ゲオルギーは彼の消耗っぷりを良く知っていた。 「情報をまとめてアルティナさんに報告しようと思っていたのですが、腰を下ろした瞬間、疲労の蓄積で今まで気絶しまい……」 まあいい、と仕切りなおすと彼は状況を報告した。 彼によると自由都市同盟に金で雇われた間諜たちが町に火を放ったのだという。恐らくは街の復興作業員に混じって相当数の工作員が流入してきたのだろう。しかし―― 「ウルグ=ヴァーシャが、赤髭海賊団の副団長がやってきましたのね」 ルーシアのその発言にジェイクは首肯した。 「しかしそれだけではありません。これはここに来る途中に襲撃してきた者の装備ですが……」 そう言って彼は一振りの剣を差し出した。 「勿論ですが私が倒したわけではありませんよ。この得物の持ち主は何者かに倒されたのか既に息を引き取っていました」 ――私が倒したわけではない。その言葉にアルティナが深く頷くと彼は少し悲しそうな顔をした。 「そして先ほどルーメリアさんのおっしゃった通り、これはアルティナさんに報告するつもりだったのですが、ウルグ=ヴァーシャが何かを目論んでいるようです、恐らくは人夫に紛れて部下と共にこの都市に潜入したのでしょう」 ウルグ=ヴァーシャ、赤髭海賊団副団長にして剣の名手。そしてフーズルの片腕。その場に強い緊張が走った。 「この得物の持ち主もウルグの手の物でしょう。で、彼なのですが剣を握ったままの耳から血を流し死体となっていました。軽く確かめた所頭の中身がぐちゃぐちゃになっていました。総括すると自由都市同盟以外の勢力がこの都市に流入しているとみて間違いないでしょう」 「……外傷なく、脳だけを破壊。……音?」 ルーシアがボツりと呟いた。 「つまり現在この地には自由都市同盟、そして謎の乱入者二つの勢力が入り混じっていることになります。このままでは市民の被害も考えられます。直ちに侵入者の排除、及び市民の救助をするよう進言しますが……」 ですが、とジェイクが続けるとそれにメティスが噛みついた。 「そんなの考えるまでもないじゃないですか!!早く行かないと!!」 言うが早いかメティスは飛び出してしまった。 「ああ、ちょっと待ちなさい」 ジェイクは彼女を呼び止めるが既にメティスは立ち去った後だった。 「糞っ、やはり彼女は……」 苦々しげに口の端が歪んだ。 「新政庁に急行しましょう。あそこにはまだ市民や大工達が大勢作業をしているはずです。それにあそこには機密がある。メティスが裏切り者でそれが自由都市同盟の手に渡ると不味い!!」 ジェイクのその焦りにマルコが待ったをかけた。 「待て、『女王の騎士団』には市民の救助を先にやってもらいたい。防衛戦からこっち市民の感情は最悪に近い、ここで政庁を護るために彼らを見捨てたりしたらマジで叛乱が起きる。この国の最強戦力を内輪を護るために使う訳にはいかない」 しかしジェイクは引き下がらなかった。 「市民?ここで新政庁の機密が敵の手に落ちればそれがどれだけの災禍を招くことになるか分からない貴方ではないでしょう?貴方の提案はこの国の防諜として聞けません!!」 「この町が落ちればメルテス将軍の死と思いが無駄になる。それにこの都市が落ちればもうこの戦争には勝てん。それが分からんわけではあるまい。貴君の提案は将軍の補佐官として却下する」 ぶつかり会う意見。ジェイクは口許を引き絞り断固たる決意を滲ませた。マルコも引き下がらない。そこにアルティナが口を挟んだ。 「要するに、市民と新軍舎、どちらも護らなければならないのですね」 ジェイクとマルコはハッとなって頷いた。 「その通りだ!!」 やがてマルコは瞳に決意を滲ませた。 「私が兵を率いて新政庁に向かおう。もしメティス=アドラステアが敵の手の物なのだとしても彼女一人なら私達でも対処できるだろう。……多分」 微妙に不安を漂わせた。 「街には『女王の騎士団』が行き市民の救助を行ってもらいたい。もしメティス=アドラステアが敵勢力を呼び込んでいるのだとしても、必ず持ちこたえて見せる。だから、君たちも急いでくれよ」 マルコは一行を真っ直ぐに見据えた。 「急いで市民を救助して、新政庁に来てくれ。私も、命を投げ捨てる気はないからな。頼むよ」 嘗て彼は将軍の死後、命を捨てる覚悟をしていた。しかしプロキオン防衛戦でルーシアとアルティナにそのことを見抜かれ指摘された。己を省みた彼はもう捨て鉢な覚悟など持っていない。今度は生き残る覚悟を決めていた。 その覚悟に一行は頷いて答えた。 彼は兵士を遣って築いた臨時の避難所の場所を一行に告げると立ち去って行った。 三度、プロキオンは脅威と相対した。 一行は再び散開し、各々が各々の思う地点の救助に向かった。 五人の力が合わされば天下無敵の女王の騎士団。 しかし単独行動を強いられれば果たして―― ゲオルギー達が修理した線路にある人影の群れが現れた。彼らはウルグによって雇われた破壊工作員だった。再び線路を破壊してプロキオンを孤立させることが彼らの目的であった。 物言わぬ長大な線路の破壊など容易い任務だった。 線路のどこか適当な場所に爆薬を仕掛けて爆破すればいい。それだけで線路はその機能を失う。 いや、ともすれば爆薬すらいらない。 適当に手持ち武器でレールの一部を切断すればそれでいい。 なんと容易い任務か。 その事実が彼らから緊張を奪った。報酬に思いを馳せヘラヘラと笑っている奴さえいる始末である。 そんな彼らの前に―― ――怒れる鬼神が立ちはだかった。 初め、工作員たちは子供が迷い込んだのかと思った。 ネヴァーフはその種族特性により子どもほどの身長しかない。彼はその種族であった。 しかし彼我の距離が十数メートルほどまで縮まると、彼らはそれが間違いであったことを悟った。 燃える街の光に照らされたその顔は憤怒の色を帯び、小柄な骨格には積載量限界まで強靭な赤い肉が搭載されている。 何よりも、男の纏う血臭に似た危うい剣呑さ、鬼気が、男の尋常ではない保有戦力の巨大さを工作員たちに知らしめた。 「な、なんだ、テメ……」 工作員の一人が狼狽えながら喚いた。だがその言葉が終わりまで紡がれることは無かった。彼が口を開いたのとほぼ同時に男の拳が彼の顔面にめり込んだのだった。 舞踏家に伝わる空を歩くような歩行法、男はそれを習得していた。それにしても取り乱しているとはいえ目の前の相手に反応する間も与えずに間合いを詰めることなどできるのだろうか? できるのだ。 何故ならば彼は 「俺はゲオルギーだ」 ゲオルギーがゆっくりと男の顔面から拳を引き抜くと粘着質な音と共に顔面から噴き出した血が顔と拳との間で糸を引いた。 ゆったりとした動作でゲオルギーは手に付いた血をを払うと、残った工作員たちに向き直った。その間、彼らは蛇に睨まれたカエルの様に身じろぎ一つできなかった。 ふと誰かがゴクリと喉を鳴らした。そして 「げ、ゲオルギーが何だってんだよ。こっちは何人いると思ってる!!」 彼我の人数差は十数倍である。個人としての資質はともかく、数に勝るという事実は人を勇敢にする。しかしそれでもその声は微かに擦れていた。 「戦いになったらこっちが有利だ。ビビるもんかよ!!」 その言葉にゲオルギーは小首を傾げた。 「戦い?」 まるでその言葉を初めて耳にしたかのような素振りだった。 「なあ、おい」 一瞬だけ、その面に珍しく涼しげな微笑みが浮かんで消えた。後に現れたのは 「戦いってのは対等のモン同士でやるもんだ」 劫火によく似た灼熱の憤怒。 「玉無しの似非畜生共、思い上がるな?今から起きるのは只の」 弱い者虐めだ、そう言うとゲオルギーは大股で間合いを詰めた。今からちょっと近所まで散歩にでも出かけるかのような足取りだった。 工作員たちは完全に呑まれていた。 やがて工作員の一人が堪えかねた様に奇声を上げた。 その質がどうであれ大声という物は恐怖を薄れさせ己を奮い立たせる効果がある。俗にいうシャウト効果である。 そのまま彼は剣を振りかぶり怪鳥音と共にゲオルギーへと飛びかかった。 ゲオルギーはそれに対して避ける素振りも見せなかった。 男の剣がゲオルギーの肩口を捉えた。 「で?」 しかしその剣は皮膚を食い破っただけで、その下にある筋肉によって容易く受け止められてしまった。 男の瞳が信じられない物を見たかのように大きく見開かれ、その喉の奥から細く長い悲鳴が漏れた。 ゲオルギーは小さく鼻を鳴らすと男の左頬に拳鎚を打ち込んだ。頬骨を砕いた手ごたえを感じながらそのまま振り抜くと男の体は錐もみ回転しながら吹っ飛んだ。そのまま地面を何度か弾むとやがて視界の外へと消えた。 再びゲオルギーが工作員たちへと歩き出すと、工作員たちは悲壮な決意を胸に武器を構えた。彼らはこれより起こる戦いを死闘だと思った。 しかしゲオルギーにとってこれから行う行為は、制裁だった。 オルフェンが崩壊した旧政庁に着くと、既に数人の工作員が何かを探すような手つきで廃墟を漁っていた。恐らくは、自由都市同盟の工作員たちが国家機密をこの騒ぎに紛れて盗みに来たのだろう。そう判断したオルフェンは手早く神竜棍で手前の工作員を抜き打ちにし、一撃で昏倒させた。そして口を開いた。 「お前ら、何をしている?」 この場に似つかわしくない穏やかな声色だった。そもそもオルフェン=ヴァールという男は生来、鷹揚とした穏やかな男だった。そんな彼は運命の濁流に押し流されて、その渦に翻弄された半生を送っていた。しかし将軍位に就くかどうかは彼自身の決断だった。 だから彼はこの場にいる共和国の脅威を排除することなど考えるまでも無い事だった。 だが、何事にも万が一という物はある。 だから問うたのだ。一応。 オルフェンの問いに彼らは暴力を以て答えた。彼らの内、オルフェンからは死角になっている位置にいた男がオルフェンに斬りかかったのだ。 それでもう充分だった。 「何ィィッ!!?」 男の顔が驚愕に歪んだ。男の斬撃をオルフェンは防御魔術と持ち前の防御力で完全に弾き返したのだった。 男の狼狽とは裏腹にオルフェンは冷ややかだった。オルフェンにとって、男程度の攻撃を防ぐことなどごくごく当たり前の事なのだ。 『鋼鉄の男』。その異名は伊達ではなく、またその在り方に衒いはない。 「俺は結構、暢気な性質をしている」 オルフェンの体が曙光に似た白光に包まれた。彼の得意とする攻撃力強化の補助魔術である。それは彼の鋼の精神によって鍛えられ並みの術者の倍以上の効果となっている。 「それがどうした!?だったらおウチで眠ってなぁッ!!オルフェン=ヴァール」 工作員の一人が武器を構えた。廃墟の中からも工作員たちが現れた。全部で十数人にもなろう数でオルフェンを包囲した。 「あのオルフェン=ヴァールだぜ、おいたしかこいつ賞金かかってたよな!?」 這い出してきた工作員の一人が上気した顔で唇を軽く舐めた。 オルフェンはそれに取り合わず続けた。 「それがどうだ?最近は忙しくてまともに休みも取れん?何てことだ……。だから」 軽く肩を竦めた。 「だから……」 「だったら永遠に休ませてやるよぉッ!!」 その声を皮切りに工作員たちはいっせいにオルフェンへと襲い掛かった。 「だから厄介事を持ち込むな、この厄介者が」 鋼は焼かれ叩かれ鍛えられることによってその強度を増すという。 しかしその場の工作員たちでは『鋼鉄の男』を鍛える程に叩くことは出来なかった。 プロキオンに存在する無数の地下空洞の一つ、臨時政庁となっているそこでチュートとルシウスは深夜まで仕事をしていた。町の騒ぎはここまで届かず、この時点で彼らは事件に気付いていなかった。 しかしふとチュートは作業の手を止め立ち上がった。 「おいどうした?」 ルシウスの問いに答えずに彼は入口の方へと歩いて行った。 そして再びはたと足を止めると上体を軽く傾けた。 次の瞬間、物陰から人影が飛び出し剣を振った。切っ先がチュートの体を掠めた。 しかしチュートは怯む様子も無く一瞬で間合いを詰めると左の手を水でも掬うかのような形にして襲撃者の右耳を猛烈な勢いで殴打した。 押し出されるように襲撃者の左耳から細い血の流れが吹き出し彼はそのまま絶命し倒れた。 彼が掬い取っていたのは空気。手に握り込んだ空気で鼓膜を破り視床下部を破壊したのだった。 「お、おい何がッ……」 動揺を露わにするルシウスにチュートは冷静に答えた。 「恐らく自由都市同盟が動いたのでしょう。どうやら私を暗殺する気のようだ」 「暗殺!?お前、なんでそんな落ち着いているんだよ!!」 ルシウスにチュートは下がるように促した。 彼らの前に十数人の武装した男たちが現れた。自由都市同盟の工作員である。全員が亜人種であった。 チュートはルシウスを庇うように前に出た。 「宰相代理!!救助に参りました!!」 そこに外から声が飛び込んできた。金属の擦れる音と共に数人の兵士たちが現れた。指示を待たずに独断で宰相代理を窮地より救わんと駆けつけた共和国の兵士たちである。 「任せた」 短く支持を出すとチュートは後ろに軽く跳躍しルシウスの横まで下がった。 「さあ、彼らが時間を稼いでいる間に奥まで避難しましょう。時間が立てばオルフェン達が救助に来てくれるはずです」 「お前……」 信じられない物を見る様にルシウスは目を見開いた。 「あいつらを、俺達を助けに来てくれた兵士たちを捨て駒にするつもりか?」 チュートは頷かなかった。ただ 「失うものが一番少ない物を選ぶだけです」 そう言うと一人空洞の奥へと歩き出した。 「さあ行きましょう」 その背中に斬殺された兵士の断末魔が届いた。兵士たちと工作員たちは練度も数も段違いだった。徐々に兵士たちが劣勢に立たせられてゆくことは自明の理だった。 「待てよ!!」 チュートの肩にルシウスが掴みかかった。 「お前、本当にあいつらを見殺しにするのかよッ!!」 強い視線を向けられてチュートは小さく鼻を鳴らした。 「はい。それがこの場の最適解です。なんなら敢えて言いましょうか」 チュートは無感動な目でルシウスの目を見つめた。 「私は彼らを見殺しに――……」 見殺し、その言葉を口にした瞬間、チュートの視界が歪んだ。目の前の光景は色彩を失い、代わりにある情景が姿を現した。 殺戮の後、踏み躙られた日常と蹂躙された未来。 彼の裏切りの結果の惨劇。 そして―― 「おい、チュート」 ルシウスに声を掛けられてチュートは我に返った。しかし 「分かった。お前の言い分も尤もだ。そこまで言われちゃあ仕方ない。ここは彼らを見殺しにして俺達だけでも……」 「『見殺しにする』……?」 彼が帰った我とは果たしてチュート=リー=アルという自我なのだろうか? 「何故だ?」 怜悧な瞳に射竦められてルシウスの背に戦慄が走った。 「何故って……」 ルシウスは必死に混乱を噛み殺した。元々チュートは愛想のいい男ではない。しかし少なくとも時折人間味のある男だった。今目の前にいるこの男の冷徹は一体なんだ。 「お前が言ったことだろう?」 お前は誰だ? 思わず口を突いて出そうになる疑問を堪えた。 何だこれは? 今一体何が起きている? 困惑するルシウスをよそにチュートは鼻を鳴らした。今までの彼ならば決してしない、他人を侮蔑するかのような素振りだった。 「そうか、俺が言ったのか。ならばそれは撤回しよう」 チュートは踵を返し、兵士と工作員たちとの戦い、もとい殺戮の最中へと戻って行った。 「お、おいチュート!?危ないぞ」 「危ない?」 嘲笑するように彼は軽く笑った。 「俺を誰だと思っている?あんな出来そこないのデミ如き案山子と変わらん」 工作員の一撃によって最後の兵士が倒れた。 次の瞬間チュートは一瞬でその工作員に肉迫すると胸の辺りを軽く叩いた。次の瞬間、工作員は地面に倒れると白目を剥いて痙攣した。そのまま身じろぎ一つしないようになると呼吸さえ止まった。 動揺する工作員たちにチュートは静かに口を開いた。 「心臓浸透、と言う」 左腕を軽く振ってジロリと工作員たちを睨みつけ次の得物を定めた。 「心臓の収縮の為の心筋の興奮終了時のあるタイミングで心臓に衝撃を与えると致死的な不整脈、俗にいう心室細動を起こす。結果はご覧の通り、防御も心構えも信念も関係ない。ただ人体と言う物体が生体を維持できなくなる。今度やってみると良い」 気安く言い放った。しかし外部からの衝撃で心臓浸透を起こせるタイミングなど二千分の十五秒しかない。しかも相手は案山子ではなく動き回る人間である。一体どれだけ人体という物を熟知していたらそんな絶技を可能にさせるのだろうか……。 説明を終えた彼はふと視線を彼らの背後に向けた。つられて彼らが視線をチュートから外した瞬間、再びチュートは彼らに迫った。最も手近にいた一人の片足を抱える様にして腰の裏側に手を当てた。そしてそのまま手前に引き彼の骨盤と背骨とを一直線にしたのだった。 組みつかれた工作員が反射的にチュートの顔面に肘を落とそうとしたがそれより早くチュートの掌底が彼の顎に突き刺さった。 彼は自分が後ろに傾いてゆくのを感じ上体を折り曲げようとした。しかし不思議なことに踏ん張りが利かずそのまままるで無抵抗に後頭部から地面に叩きつけられた。転がっていた堅い石で頸椎砕かれ速やかに絶命した。 背骨と腰骨を一直線にされると重心移動ができなくなるという人体の構造を利用した投げであった。 ルシウスは思わず息を呑んだ。 一瞬でチュートが二人の工作員を絶命させた。 しかしその技はまるで――…… チュートは工作員たちを見据えると静かに言い放った。 「さて、あと人間を十基程度破壊すればいいだけか」 工作員たちは完全に呑まれていた。目の前の男の尋常ではない剣呑さに。 そんな彼らにチュートは静かに微笑んだ。 数分後、屍山血河を足蹴にし彼は一人佇んでいた。 殺戮は速やかに完了した。十数人いた武装した工作員たちは皆悉く息絶え、隅の方でルシウスが小さく震えている。表情一つ動かさず、無感動に、それこそ機械の様に、或いは工場労働者が機械でも組み立てる様に淡々と工作員たちの生体機能を破壊して彼らを物言わぬ躯に変えてゆく姿はチュートが高い戦闘力を保有していると知っているルシウスにすら戦慄を齎した。 ――お前は誰だ 胸中に訪れた疑問は、しかし口をついて出ることは無かった。 代わりに奥歯がカチカチという、小さな音を立てた。 チュートは乾いた眸でその風景を眺めていた。その胸中には何の感慨も浮かんでは来なかった。 人を殺すのは別に初めてではない。 それどころか殺人は彼にとって日常の中においてありふれたものであった。 一族の宿命に従い、使命として一族の敵を葬る殺戮者。それが自分の正体であると彼は思い出し始めていた。 その時身に着けた技が現在も尚肉体が覚えており、それが自分のあの異常な身体能力の正体だったのだろう。しかしそれは本質ではない。 当然だ。 どれだけ優れた道具であっても正しい使い方をしなければその機能を十全に発揮することは出来ない。 例えば包丁なんかがそうだ。そのまま乱雑に振るうだけで人一人くらいなら容易く葬ることが出来るだろう。しかしそれはそのものの本質ではないアフォーダンスの一つではあるにせよ、それでもやはり物にはふさわしい機能がある。第一そんな使い方をしていてはすぐに刃が欠け、油が絡んで切れなくなってしまう。 しかし、と彼は思った。 真に優れた道具であるならば、使い手が定めた用途を本質の一つとして叶えるくらいの拡張性があるものだ。 例えば、自分のもつ異才はそうだろう。 最悪の健康状態でも全快時と同じようなパフォーマンスを発揮する身体機能、精神活動を意識の支配下に置くことによって過労による意識の混濁を無視することが出来る思考力、骨折や頭痛の痛みを強制的に遮断する知覚能力。 どれも自分の特性を本質とは違う使い方をした結果だ。 そして、人体の構造を知悉しているが故の効率の良い生理機能の破壊手段。 全てはある一族の叡智の結晶である。 二十年ぶりの全能感が彼の五感を駆け巡りむず痒いような喜悦に彼は小さく喉を鳴らした。 封じ込めていた記憶が解き放たれようとしていた。 そこで再び彼の頭に鈍痛が訪れた。 それもこれまでにないほど巨大な。 彼は痛みのあまり蹲り頭を押さえた。既に取り戻した記憶によって彼は彼の能力を取り戻している、それでなくても彼は自己の感覚を意識の支配下に置いている。それ故に清澄な意識に影響を与えるほどの痛みなど取り除けるはずだった。 しかしその痛みは影の様に決して離れることなく彼に付きまとった。 やがて彼は喉の奥から絶叫を迸らせ、やがて白目を剥いて全身が痙攣し出した。 「お、おいチュート!!大丈夫か」 尋常ではない彼の有様にルシウスが駆け寄って声を駆けたが、チュートはそれに応える余裕なく痛みのあまり気絶した。 意識を失った彼の前に再びある情景が姿を現した。 今度は、先ほどよりももっとずっとはっきりとした姿で。 焼けた村だった。彼の足もとには無数の死体が転がっている。全て、彼によって齎された物だった。彼の裏切り、その結果だった。 その場に彼の他に生きている物はいない。この村を襲った悪意によって全てが蹂躙された。村を守るために剣を取って立ち上がった戦士たちはある者は頭蓋骨を砕かれ、またある者は心臓を破られて即死していた。薬学と医術に秀で、それ故に回復や治療の業を持つその部族を打ち滅ぼすためにはそうするのが最も効率が良かった。即ち、回復の余地のない位の破壊。 チュートはそのまま力無く村を彷徨い生きている者を探した。しかしそんな者は一人としていない。この村を襲った悪意は執拗で徹底的でこの部族の血をこの地で根絶させてやるつもりなのだから。 やがて彼の前にまた一つの死体が現れた。一人の男の死体が。 その男は武芸に秀でた才は持っていなかった。体躯にも恵まれず、頭の回転も早くも無く鈍くも無いそのものだった。凡庸、その言葉を体現する平凡な男だった。 一方で彼に牙を剥いた悪意の主は天才という言葉が陳腐に思えるほどの偉才の持ち主だった。『人類の終着点』そう仇名される男である。『武神』と畏れられる男である。 だが彼は悪意に立ち向かった。 勝てないと知っていても尚、愛しき家族を守るために。 父親と言う矜持を胸に。 しかし結果は無残な物だった。 男の体は徹底的に破壊されていた。両膝は砕かれ、利き腕は千切られ、残る腕も肘の辺りで捻じられ白い骨が皮膚を突き破って露出している。心臓は破られ、砕かれた胸骨が肺に突き刺さり、動脈を切断され、脳天は叩き潰されていた。 その亡骸にチュートの瞳が揺れた。 「違うんだ。私は……」 ――お前を裏切りたくなんてなかったんだ……。 力無く項垂れ彼はその場を後にした。 罪の重さが彼の足取りを重くしている。 やがて隠れ家のような小屋が彼の前に現れた。中に入ると一人の女性の死体があった。 出産直後なのか手術着の様な服を纏っていた。ただその首から上は無く床に粘ついた血がぶちまけられていた。 改めて全てが死に絶えた絶望を目の当たりにした彼は目を瞑り天を仰いだ。 ここにある命は全て失われた。代わりにここには彼の罪だけが横たわっていた。 その時、彼の耳に声が届いた。 赤ん坊の泣き声が。 思わずその出どこまで駆けてゆくと戸棚の陰に隠し扉が有りその向こう側から声は届いていた。 慎重に扉を開けるとその先は小さなロッカーになっており、その中に一人の赤ん坊が居た。 しばらく彼は呆然と彼女を眺めていた。だがやがてハッとなって彼女を胸に抱いた。気が付くと頬が暖かな雫で濡れていた。抱いた赤ん坊にはネームプレートが付いていた。両親の祈りと願いの名前がそこには刻まれていた。彼女が確かに祝福され、望まれて生まれたという証と共に。 『ルーメリア』という名前が。 「チュートさん、ルシウスさん、大丈夫ですか!!」 少しして空洞内にスノウが駆けつけた。 「お、おう少年来てくれたのか」 ルシウスが答えるとひとまずは大事ないような彼の様子にスノウはほっと胸をなでおろした。だがすぐに安堵は戦慄に変わった。 スノウが空洞内に踏み込みルシウスを発見するとそこはまるで屠殺場のような様相を呈していた。地面から天井まで粘ついた血液が付着しており赤黒く染め上げられていた。そして十数人もの武装した男の死体が散乱していた。ある者は首をひしがれ、ある者は脳天を踏み潰され、多種多様な殺され方をしていた。ただどの死体も一撃、せいぜい二発で効率よく生理機能を破壊され仕留められていた。 そこに若干の違和感があった。 これまでチュートに仕留められたものは眼球を抉りながら眼窩を掴んで首を捻じり切られたり、東洋拳法の圧倒的な破壊力で肉体を破壊されたような、人としての形を保っていないものがほとんどだった。 しかしここの死体はどれもそうではない。 まるで魚を〆るかのように粛々と淡々と、事務的に命だけを奪われていた。 「おーい、こっちだ」 その向こう側でルシウスが手を振った。その顔はやや蒼い。 「……何があったのですか」 ベテランの政務官とはいえ彼はあくまでも文官である。その彼が戦場経験者であるスノウすら身震いするような虐殺の場に居合わせたのだ。無理もない。だからスノウは敢えて彼の動揺には触れずに状況を聞いた。 ルシウスは答えた。 事務処理と復興計画の予算の計上をしていた所を武装した工作員たちに襲撃されたこと、それをチュートが瞬く間に惨殺せしめたことを――…… ――彼のおかしな言動は敢えて伏せたまま。 「やはりチュートさんでしたか……」 スノウは思わず苦笑した。ホントにあの人なんなの? 苦笑しながらハッとなった。 「それで、そのチュートさんはどちらに……!?」 ルシウスは苦々しげな表情で肯いた。 「こっちだ……」 彼はさらに奥を顎で指した。そこには椅子を並べた簡易寝台が作られておりチュートはそこに横たわっていた。 怪訝に思いスノウが近づいて確認すると彼の様子がおかしかった。白目を剥き、痙攣している。緩んだ口元からは泡を吹き、尋常ではない汗を掻いている。 「奴らを皆殺しにした直後だったよ。突然絶叫すると糸が切れたみたいにぶっ倒れちまった」 「まさか、毒を……!?」 「いやそれはない」 スノウの疑念をルシウスが一蹴した。 「奴は戦闘で一切傷を負っていない。それどころか工作員たちは奴に触れる事すらできなかった。ここで起きたのは戦いじゃない。殄戮だ」 「じゃあ……」 言葉に詰まるスノウの脳裏によぎる物があった。同時にルシウスもそれに思い当ったようだった。 「こいつ、頭痛がどうの言ってなかったか?」 スノウは頷いた。 「体調不良……。何もこんな時に……」 ルシウスは何も答えなかった。彼の豹変についてスノウに告げるべきかを逡巡し、そして結局告げないことにした。 「とにかく、ここにこのままいるわけにはいくまい」 「そうですね。臨時の避難所まで避難してください」 スノウが避難所の場所を告げるとルシウスはチュートを背負って避難した。その際にスノウも手を貸したが力が抜けたチュートはまるで死体の様に重く難儀した。 「君はこれから?」 去り際のルシウスに問われスノウは頷いた。 「市街地の救助に向かいます。市民に被害を出すわけにはいかない」 ルシウスは一瞬俯いた後に顔を上げスノウの瞳を見据えた。 「頼む」 短くそう言われスノウは再び、今度は深く頷いた。 ルーシアは野戦病院へと駆けつけた。 何故なら野戦病院にはあの腕がいる。医師シュヴァイツァーはこの国に仇を成さないと約束した。しかし腕がもしその権能を以て害をなしたのならばあの野戦病院は瞬く間に死で溢れかえるだろう。それだけは阻止しなければならなかった。 野戦病院に到着すると街の火に照らされてオレンジ色に染まったテントは何事も無かったかのように静まり返っていた。安堵の溜息を零しながらルーシアが近づいて行くとテントの前でドナが呆然と地面に座り込んでいた。 「ドナさん、ご無事でしたのね」 ルーシアが駆け寄るとドナは蒼い顔で振り返った。その体は小さく震えていた。 「私たちは無事ですが……。でも私たちを守るために……、シュヴァイツァーさんが……」 「どういうことです?」 ルーシアはわずかに眉を顰めた。 「あ、あの、その」 ドナは言葉に詰まった。何が起きたのか自分の中でもまだ状況を整理しきれていないようだった。だが、やがて言葉を紡ぎ始めた。 「少し前に武装した怖い人たちがやって来て……、でもシュヴァイツァーさんがここを護るためにお一人で連中と話し合って、それでそこに連れてかれてしまったんです……」 ドナは少し離れた所にある物置小屋を指さした。 「私たちのせいで……シュヴァイツァーさんが……」 痛切極まりない表情でドナは項垂れた。人の命を救う事を生業にしている彼女が他人の犠牲で生き延びたのだ。その心痛は察するに余りある物だろう。ルーシアはしゃがみ込んでドナと目線を合わせた。 「……そう心配なさる必要もありませんわ。奴はそう簡単に殺せるような、そんな穏当な生物ではありませんもの」 気休めと本心の入り混じった慰めだった。だがドナはルーシアをキッと睨んだ。 「シュヴァイツァーさんは私たちを助けて下さったのにそんな言い方……!!」 「いやいやいや、流石はルーシアちゃんだ。僕の事をよく理解している」 ニュッとドナの頭の上に顎を乗せて腕がルーシアにヘラヘラと笑った。 ルーシアが思わず飛びのいたのと同時に、ドナが「シュヴァイツァーさん!!」と振り返ろうとしてドナの頭が腕の顎を打ち、腕は小さく呻いた。 「腕……。貴方どうして」 ルーシアの視線に腕は顎をさすりながら答えた。 「あの工作員の人たちなら、彼らは共和国兵じゃあないからね。約束の範囲外、だと思うけど?」 肩を竦める腕には返り血はおろか衣服には些細な乱れすらなかった。ルーシアはハッとなって小屋まで駆けて行った。扉を開けるとそこには只の雑貨品だけが仕舞い込まれていた。ドナは腕は十数人の武装した工作員と共にこの小屋に入ったと言っていた。しかし小屋の中には死体も争ったような痕跡もなかった。まるで初めからそこには誰もいなかったかのように。そしてその小屋の出入り口は一つしかなかった。 「腕、貴方一体何を……」 ルーシアが問うても腕はヘラヘラと覚束ない目つきで薄ら笑いを浮かべただけだった。 「さて、どうやら耳目ちゃんや足裏君も動き出したようだし僕もアルバイトの時間は終わりにしよう。名残惜しいが僕はこの辺でお暇させてもらうよ。なんせこれから君を殺す算段を固めなければならない」 それだけ言うと腕は立ち去って行った。 「じゃあね。ルーシアちゃん」 「……二度と、お会いすることが無いよう祈っていますわ」 腕が立ち去った後、未だに狼狽から立ち直れなかったドナを正気に立ち返らせるとルーシアは傷病者の避難誘導を行った。彼女のテキパキとした指示により間も無く避難は完了した。 だが――…… 燃え盛る街並み、逃げ惑う人々、混乱と恐慌、復興し始めた市街地では再び地獄の窯の蓋が開け放たれた。 そんな街の中、人の濁流に紛れ、街に火を放った工作員たちは更なる破壊を目論んでいた。 彼らの一人が剣を抜き放った。彼はここで刃傷沙汰を起こすつもりだった。血と刃物、どちらも人間の冷静さを奪う作用を持っている。町に更なる混乱を巻き起こしこの町の防衛機能をマヒさせるつもりなのだ。 彼は近くにいた少年に狙いを定めると、そっと後を追いながら剣を構えた。心臓に狙いを定めその顔が邪悪に歪んだ。 安全を求め逃げ惑う人々にそれに気付かない。少年自身、わが身に迫る危機に気付いていなかった。 男が心臓を一突きすべく剣を突き出した。 そこに突風が駆けつけた。 突風は炎を以て男の剣を打ち払った。 少年が風に押され尻もちをつきそうになると一人の男がそれを支えた。 「さ、この場とあの連中は私達が引き受けますからですから君は他の人と同じように避難なさい」 少年は軽く頭を下げるとその場から立ち去って行った。 「無辜の民を狙う卑劣な凶手め、この町の平和と住人の平穏の為に貴方たちを駆逐する」 突風の正体は竜を駆るアルティナだった。彼女は工作員たちを睨みつけながら剣を構えた。炎に囲まれて尚、眩く輝く聖火、多民族融和への篝火、聖剣フレアブランドを。 「な、なんだテメェはッ!!?」 狼狽える男の後ろからずらりと十数人の仲間が姿を現した。 あまりにもお決まりな男の反応に少年を見送った男、ジェイクは思わず失笑した。そしてアルティナはこんな男にも問われれば名乗るのだろうな、と思った。誇り高く誉れ高き騎士だから。 「女王の騎士団、そして共和国防諜総括!!アルティナ=フレアライト」 剣の切っ先を工作員たちに差し向けながらアルティナは凛と言い放った。 アルティナの名前を聞き工作員たちに動揺が走った。 だがすぐに彼らは己を鼓舞するかのように口走った。 「ケッ、女王の騎士ったって所詮は女だ、囲んでやっちまえば楽勝だ」 「そうだそうだ、俺達がビビってるって言うのか!?やるかやられるかだ」 彼らの強がりに鼻を鳴らしながらジェイクがアルティナに並び立った。アルティナは彼を一瞥すると溜息を吐いた。 「怪我しないようにジェイク、私の後ろに隠れて居なさい」 その言葉にジェイクは表情を引き攣らせた。 「……私も男です。ご婦人のスカートの陰に隠れているわけにはいきませんよ」 「大丈夫なの?」 彼は余裕を滲ませて肩を竦めた。 「『男になるためならなんだってしよう。但しやり過ぎはいけない』」 ジェイクは前を見据えた。 「来ますよ」 一抹の不安を抱きながらアルティナは戦闘に集中した。 ルーシアが傷病者の避難を終えたその時、悪寒を感じ思わずその場を飛びのいた。すると自分がいた場所の空気が撓み弾けた。音波による超振動の破壊である。すなわち 「来ましたのね。耳目」 その場に猫族の少女が現れた。 「何故貴様は知覚できない攻撃を躱せる……!!」 耳目は忌々しげに顔を歪めた。反してルーシアは涼しげな表情を作った。 「さて、案外あなたが思う程その程度が高くないからかもしれませんわね」 ハッタリだった、いくら研ぎ澄まされた感性を持つルーシアとはいえ音の周波数や反響まで計算して完全に攻撃の痕跡を消した耳目の奥義をそう何度も躱しきれるものではない。 しかしいくら耳目と言えどもあれほど精密な音波を歌い上げることは出来ない。 「まあいい。要件は分かっているようだなルーメリア。では死ね」 「さて、この間も同じことをおっしゃっていましたが、私はこうして生きている」 小馬鹿にしたようにルーシアは口の端を歪めた。 「さてはて、果たして私は幽霊なのでしょうか?それともあなたが口先だけのヘタレなのか?どちらだと思います?」 ルーシアの挑発に耳目は一瞬頭に血が上ったがなんとか堪えた。 「ふん、どちらでも関係ない。すぐに望み通り葬ってやる。亡霊になりたいならその後で好きにしろ」 彼女は知っていた。 どれだけ贔屓目に考えても現状はルーシアに絶対的に不利であることを。 何故ならルーシアは攻撃手段を持っていない。尤もその分、補助手段に関しては他に並ぶものがいない程極めているのだが。 だから耳目がルーシアに倒される危険性はない。反面、ルーシアは幾ら耳目の攻撃を躱し続けても、一度でもつかまってしまえばそれで終わる。人間の精神と身体機能を破壊する彼女の歌を聞けばいくらルーシアと雖ももう躱すことは出来なくなる。 そしてそのことはルーシアとて理解していた。 しかし理解してなおルーシアは不敵に笑った。 「生憎、死ぬ気は毛頭ありませんわ。それに私に攻撃手段がないからと言って安全を確信するのはやや早計ですわね。私には仲間がいます。それにここは本拠地。増援が来れば貴方の砂上の優勢は容易く崩れますわ」 仲間、その言葉に耳目はやや苦々しげな表情をした。 「それまで精々、僅かな勝機に縋りついた貴方の涙ぐましい策略に付き合ってあげますわ耳目」 嘲笑うかのように吐き捨てるとルーシアは再び跳躍した。同時にルーシアの立っていた場所の大気が弾けた。 「……望み通り踊ってもらおうか、ルーメリア」 耳目の双眸に嫉妬に似た昏い情念が燻ぶった。 横目でルーシアはちらりと時間を確認した。皆と別れて既に一時間ほどが経とうとしていた。耳目がここにいる以上、足裏も動いていると考えて間違いがないだろう。 時間が、無い。 市街地ではアルティナが工作員の最期の一人を打倒した。 竜騎士アルティナにとってもやはりこの工作員たちは弱敵と言わざるを得なかった。速やかに彼らを戦闘不能にしたアルティナは持っていたロープで彼らを縛り上げ行動不能にしたのだった。 全員を縛り上げたところでアルティナは気付いた。数が一人足りない。 ハッとなって周囲に視線を巡らせた。自称ポメロよりも弱いというあの男がまさか本当に戦闘を行っているのだろうか。それとも彼には実は隠された実力でもあるのだろうか。 獣の吠え声のようなものが物陰から上がり、アルティナが慌てて駆けつけるとそこでジェイクは工作員の一人と取っ組み合って戦っていた。 彼は普段の飄々とした胡散臭さなど微塵も無く、ひっかき傷だらけになりながら、獣のような雄叫びを上げながら原始人の様に戦っていた。何とか馬乗りになると瓦礫を拾い上げると頭に向かって何度も振り下ろした。しかし興奮と疲労からか中々命中しない。その隙に工作員は腰から小刀を抜くとジェイクの脚を刺した。 呻き声を上げるジェイクは苦痛を堪えながら足の小刀を抜くと絶叫と共に工作員の喉に付きたてた。 血しぶきが上がりジェイクの顔と胸元に降り注いだ。工作員は四肢を痙攣させたがやがてピクリとも動かなくなった。 敵の死を確認するとジェイクは立ち上がりアルティナのそばへと寄ろうとした。しかし足をもつれさせて転ぶとその場で人目をはばからずに嘔吐した。 「おぉ、もう終わったのですか、流石ですね。いやぁ私の方はてんで駄目ですね。いやははは……、初めてなんですよ、人を殺すのは。はは、カッコ悪いところをあなたに見せたくなかったんですけどね。やっぱ駄目ですね。頭脳派気取って自分の手を汚さない奴は。縦示にも常々言われていたんですけどね。ちょっと勇気が出なくて……。こんな醜態をあなたに晒すくらいならもっとまじめに聞いておくんだった」 彼は立ち上がろうと地面に手を着いたがその腕は震え顔面から地面に倒れた。 「糞、畜生、止まれよ。止まれよ、畜生……」 「ジェイク……貴方……、人を殺すのは初めてなのね」 初めて人を殺してしまった実感で震えながら彼は何とか強張った笑みを作った。 そのまま彼は物陰に腰を下ろした 「アルティナさん、暫く私は行動不能です。とはいえ少し休めば回復するでしょう。ですから私に構わずに行ってください。市民が救助を待っている」 「でも、そんな貴方を置いて……」 アルティナが彼の身を案じると、ジェイクは珍しく声を荒げた。 「お願いします。言ってください」 顔を上げた彼は打ちひしがれた子供の様な顔をしていた。 「これ以上私を惨めな気分にさせないで下さいよ」 アルティナが逃げ損なった市民を探していると不意に声を掛けられた。 「アルティナさん」 援軍に駆け付けたスノウだった。 「スノウ!?」 「チュートさんたちは無事に避難しました。こちらのお手伝いをします」 「ありがとう。でもこちらもあらかた片付いたわ。後は私がやるからあなたは新政庁へ行って」 アルティナに言われたとおりにスノウは立ち去って行った。そこで不意にアルティナは声を掛けられた。 「お、おい。あんた、あの、フレアライト様じゃねいですか!!」 声の主はヨゼフだった。 「ヨゼフさん!?こんな所で何をしているのですか。早く非難を」 アルティナにそう言われてヨゼフは何故か俯き逡巡するような素振りを見せた。 やがて意を決したように苦悩に歪んだその面を上げた。 「こっちに来てくれ」 連れて行かれた先には倒壊した仮設住宅があった。そしてよく見知った顔がその下敷きになっていた。 「……ノールさん」 ヨゼフが静かに頷いた。 「あいつ、逃げ損なって、それで下敷きになっちまったんだ……」 「瓦礫を吹っ飛ばします」 短く告げると剣を構えた。フレアブランドの炎が気合に呼応するように勢いを増した。 「ま、待て」 ヨゼフがアルティナの腕を掴みかかった。 「何をッ」 この期に及んで―― 言いかけたアルティナにヨゼフは跪いて地に擦りつける様に頭を下げた。 「お願いします。あいつをちゃんと助けて下さい。あいつは俺の、……生き甲斐なんです」 言われてハッとなった。確かに乱暴に瓦礫を攻撃すればその余波でノールはもしかしたら消えぬ障碍を負うことになるかもしれない。 「ええ、分かっています」 しかしアルティナに臆することは無かった。何故ならばその手は人を倒す為でなく救うためにあるのだから。 集中し痛点を薙ぎ払うと綺麗に瓦礫は消し飛びその下からノールが姿を現した。 彼は気を失っているようだったが幸い大きな怪我はしていないようだった。ヨゼフは何度も何度もアルティナに頭を下げるとノールを肩を貸して持ち上げようとしたそこにジェイクが現れ逆の側から肩を貸し、ヨゼフと二人でノールを担いだ。 「アルティナ、彼らは私が避難所まで連れて行きます。市民の避難もあらかた完了したようです。貴女は新政庁へ。ここから先の鉄火なやり取りにおいては私は足手まとい。ひとまず避難し頃合いを見計らって合流します」 そう告げる彼の顔はまだかすかに蒼い。 「ジェイク、貴方は大丈夫なの、その、少し休んだ方が……」 ジェイクは首を振った。 「……これでも、男なんですよ。私は」 言葉とは裏腹にその顔は浮かない。先ほどの醜態を気にしているようだ。 アルティナは殊更明るい声で告げた。 「そう、じゃあそちらは任せるわ」 「ええ任されました」 ヨゼフと共にノールを肩に担ぎながらジェイクは立ち去って行った。その背中にアルティナは語りかけた。 「しっかりやってくれたら、そうね。さっきの醜態は私は忘れることにするわ」 その言葉にジェイクは小さな声で「ありがとうございます」とだけ零した。 数分後、ジェイクは避難所の医務室にノールを運んだ。そこでジェイクも診察を受ける事を進めるヨゼフの提案を断って、ノールの付き添いを彼に任せるとジェイクは外に出た。 そこで気が緩んだのか廊下の壁を背に腰を落とした。 工作員へと風を切って肉迫するアルティナの背を想いながらジェイクは一人力なくごちた。 「やっぱりすごいなぁ。あんな風に生きたいなぁ」 そう言って忍び笑いを漏らした。 「何を言っているのやら、そんな憧れの人を騙して、その善意と正義に付け込んでいる癖に……」 自嘲に口の端を歪めながらジェイクは石畳に拳を打ち下ろした。皮膚が破れ血が噴き出した。 「自分が望むままに強くなれるなら……。誰が人を騙したりするものか……」 火事に煽られて朱が混じっている夜空を見上げた。 「頼むぞ縦示。ルーメリア=ヘイシスを死なせるなよ」 それだけ漏らすと彼は自分の弱さと汚さに声も無く哭いた。 何度目かになる耳目の攻撃を躱しながらルーシアは小さく舌打ちした。 いつまで此処に釘づけになるのだろうか、そんな時間は無いのに。 反面で耳目はニヤついた笑みを張りつかせた。 「ようやく見切って来たよルーメリア。次かその次か、それが貴様の最期だ」 「あら?本当にそうならとっととなさればよろしくて」 軽く流すルーシアだが、耳目は余裕を崩さない。 「ああ、ならば望みどおりにしてやる」 そして息を吸うとこれまでのどの攻撃よりも激烈な音波を放った。 大気を歪めながら狂奔する怒涛はルーシアへと迫った。 そしてそれが彼女に到達する刹那―― ルーシアの蛍火と共に視界いっぱいに閃光が糸状に走り、世界をバラバラに斬り裂いた。 「追いついたぜ」 次の瞬間、世界は何事も無かったかのように元通りになっていた。それまでと違う点は一つ、ルーシアの前に一人の男の背中があった。手や首筋から覗く肌には深い皺がいくつも刻まれており、乱雑にそろえられた短い髪は白くなっている。既に老齢にさしかかっており年の頃は七十の辺りだろうか。しかし背筋は良く通り矍鑠としていた。 地平線の彼方から猫族の少女が姿を現した。同時に知覚できない音波の攻撃も。 だが今度はルーシアは躱す必要もなかった。 男が軽く手に持っていた朱塗りの杖で地面を叩くと、空中に糸状の閃光が走り迫りくる音波を切り払ったのだった。 「ふん、ルーメリア、要件は分かっているな。死……」 言いかけて耳目はハッとなった。 時間が戦闘開始時に戻っている。 何か、把握できないような途轍もないような事が起きている。 ルーメリアの混乱はある意味でそれ以上だった。何故なら咄嗟にルーメリアが時間を確認するとそちらは逆に皆と別れてから二時間以上経過していたのだった。 傷病者の避難に一時間、そして耳目との戦闘はせいぜい十数分。どう考えても理屈に合わない現象が起きている。おまけにその戦闘は白昼夢の如く消え失せているのだ。 そんなその場の混乱など我関せずと言った様子で男はルーシアに高らかに言い放った。 「よう姉ちゃん。面倒臭ぇしがらみで助太刀に来たぜ。それともこいつぁ余計なお世話か?」 「き、貴様はッ」 「あなたは確か……」 ルーシアはその男を知っていた。その名を言うことが出来た。かつて二度、男と会ったことはある。シリウスの街とズブラの街でジェイクと行動を共にしていた盲目の居合抜き。尤もその際にはろくに言葉も交わさなかったはずだが…… 「屍群縦示!!?」 「『掌』」 二人に同時に言われて縦示は楽しげにカッカと笑った。 「あなたは……どうして?」 ルーシアの口をついて出た疑問に彼は相好を崩した。 「カカカ、世の中おめぇ様に生きててもらっちゃ困る連中ってのがいるんだろうが、逆におめぇ様に生きててもらいたい奴ら、ってのもおるんよ」 「私に……生きて……?」 狙われることにはすっかり慣れてしまったルーシアだがその生を望む者たちがいるという彼の言葉を思わず反芻した。 「っつー訳だ。だから借りなんて思う必要ないぜ、俺は俺の都合で動いてるんだから。それにあんたにゃあ、やらなにゃあならんことあるだろ?まあ要はあれよ」 縦示は好々爺らしくニカっと言い放った。 「ここは俺に任せて行けい!!」 混乱の中にあってもやはりルーシアは聡明でその決断は早かった。 「そうですわね。ではこの場はお任せします」 その場を縦示に任せ彼女は立ち去って行った。その間際に 「ですが、どうかご武運を」 「おいおいおい。美人のオネエちゃんにそんな事言われちまったら……」 縦示は凄まじい笑みを浮かべ、耳目と対峙した。 「おじいちゃん張り切っちゃうよ?」 ルーシアが立ち去ると耳目は縦示を睨みつけた。本当は追いかけてしまいたかったが死線を潜り抜けたものの直観が告げていた。僅かでも動けば斬殺されると。 そして屍群縦示は造作もなくそれが出来る。そのことを彼女は知っていた。 「くっ、何のつもりだ『掌』!!」 「カッカッカ、随分古ぃ呼び名だな。それで呼ばれんのは久しぶりだ。今の俺は屍群縦示つーんよ?」 カッカと肩を揺らす縦示に耳目はじりじりと間合いをはかった。如何に伝説を纏った男と言えども相手は枯れた老人。若く才能に恵まれた自分ならば勝機は十分にある、そう思っていた。 「あー、気ぃ張ってるとこ悪いんだが……」 縦示は申し訳なさそうに頭を掻いた。無防備で無造作に。だがその体からは微かに蛍色の光が立ち昇っていた。 「お前もう斬られとるぞ」 なんでもないように彼がそう言った次の瞬間―― 「はっ?なっ、そん、馬鹿なぁッ」 耳目は左肩から袈裟懸けに裂傷を負い、夥しい出血を迸らせていた。が、何とか命脈を保っており、縦示は微かに眉を顰めた。 「ほう、生命の呪符か。いいねぇ、遠足の準備に手ぇ抜かない子はおじいちゃん好きだよ」 「糞っ」 悪態を付きながら睨みつけた。 「で、よ」 縦示は肩を竦めた。 「もっとやるか?別にいつでもやれるんだが、なにも美人の娘っ子が死に急ぐこたぁねえと思うが?」 「地獄に落ちろ、裏切り者め」 悪態をつくと耳目はその場から消え去った。 「どの道地獄にゃもうすぐ落ちんだからもうちょっとジジイにゃ優しくしろよな。そう思わん?なあ、アル」 『アル』とそう彼は語りかける様に言った。 するとそばの路地裏から『腕』が頭を振りながら現れた。 「いやいや屍群先生、相変わらず途轍もないですね。流石は本物の『到達者』。世界の書き換えなんて僕にもできませんよ」 「もしかして俺は御邪魔をしちゃったかな?」 「いーえ、助かりましたよ。ルーシアちゃんに僕が助ける姿を見せるわけにはいかないし、耳目ちゃんもいるからどうしたものかと悩んでいたんですよ。流石にルーシアちゃんを助けるために耳目ちゃんを倒したら嫌われてしまう。嫌われるのはツラいですからねー」 「いや、その辺はもう手遅れじゃねぇか?」 腕は地面に広がる血だまりを横目に鼻を鳴らした。 「まったく耳目ちゃんも7,8年前くらいは結構懐いてくれたのに……。今じゃあ僕はまるで蛇蝎ですよ。僕はピンクのカバに乗った神様の啓示に従っただけなんだから、ニルヴァーナの回転木馬に乗っている司祭の免罪符は来年の昨日には郵送されてきたはずなんですよ」 意味不明の戯言を喚きながらニタニタと笑いながら『腕』はしゃがみ込んで血だまりをいじくり始めた。その姿はまさに狂人と言うほかなかった。 「なあ、アル」 縦示の口許が引き絞められた。後悔を噛み締める様に。 「お前のソレ、事情は分かっている。必要なんだってこともな」 『腕』背中に縦示は語りかけた。 「だが、もしお前が辛くなったら、何か吐き出したくなったら、言ってくれ。黙って話を聞く位は、この雑巾爺にも出来るんだぜ」 『腕』の玩んでいた血だまりが蒸発し硫黄の匂いのする煙が立ち上がった。 「……聞かなかったことにしておきます。先生が、僕がルーメリアの秘密を覚えているということを知っているのだとしたら、貴方を殺さなければならなくなる」 縦示は頭を掻いた。 「――そうだな。スマン。やっぱ俺も言わなかったことにしておく」 「なんですか、それ」 『腕』は薄い笑顔を浮かべた。 「助かりますよ。いくら僕でも本物の『到達者』を始末するのは骨が折れそうだ」 ほっとしたようにそう零す腕はまるで普通の男のようで、思わず縦示は朗らかに笑ってしまった。それについ釣られる様に腕もまた声を出して笑った。 メティスを追ったマルコは兵士を引き連れて新政庁前までやって来た。そこでメティスは大工に避難を呼びかけていた。 「あのー、ごぞんじのとーり危ないみたいッスよー。みなさん早くひなんしてくださいッスー」 「あいよー、お嬢ちゃんもなぁー」 その場にまだ敵の影は無く、どこか間延びしたメティスの声とそれに答える職人たちの声だけが響き非常事態にも拘らず和やかな空気が漂っていた。 その光景にどうやらメティスが敵の手の者であるという予測は外れであると悟り、マルコはひとまず安堵を漏らした。そしてこのまま敵襲無い事を、この騒ぎが只の火事騒ぎである事を祈った。 しかし当然の様にその期待は裏切られた。 道の向こうから道の中央を大股でのっしのっしと闊歩する人影が近づいてきたのだ。 剛人のかなり大柄な男性であり大量の刃物を背負っている。近づいて来るにつれ、男が有角族である事、そして全身に搭載したはち切れんばかりの筋肉を見て取ることが出来た。 「足裏……」 ぼそりとマルコが漏らすとメティスが聞き返した。 「ソクリ?」 「ああ、チュートさんから注意を受けた。ルーメリア=ヘイシスさんを狙う僧兵院のエージェントだ……」 「へいしすさんを!?」 頷きながらマルコは喉がひりついていくのを感じた。緊張で顔が強張っている。 「ははは、どうやら俺の事を知っているようだな。顔が売れるってのも変な話だ、おれは足裏なんだぜ」 品定めするような足裏の視線に舐められて、兵士たちは思わず剣を構えた。強い緊張がその場に張りつめた。 「あのー」 緊迫した空気を破るようにメティスが間延びした声を上げた。 「それでソクリさんはなんの御用でここに来たッスか?」 一瞬ポカンとした後に足裏は破顔した。 「ははは、面白いお嬢ちゃんだ」 「メティス?」 マルコが咎めたがメティスは構わず続けた。 「貴方がへいしすさんを探しているのならここにはいないッス。ここにいるのは罪もない大工さんと私たちだけッスよ。だからあなたがへいしすさんをお探しなら別のところに行くことをオススメするッス」 足裏は思わず破顔した。この無垢を如何に踏み躙ってやろうか?残酷な愉悦が込み上げてきた。 「ああ。お嬢ちゃん心配ありがとな、でも別にルーシアを探しているわけじゃあないんだ。本拠地さえ見つければ、そこで待ち構えていればルーシアには何時でも会える」 獰猛な凄い笑みを顔に張り付かせて足裏はメティスとマルコ、その周りの兵士たち、そしてその後ろにいる大工達を品定めするかのように見回した。 「ただちょっと俺は、ここにいる人間を皆殺しに来たんだ」 聖句でも告げるかのように言い放った。同時にその場に彼の放つ凄まじい鬼気が立ち込め、マルコや兵士たちは完全に彼に呑まれていた。 「なんでそんな事をするんですか?」 ただ一人メティスは泰然としたまま、ごく普通に聞き返した。そんな彼女の様子に足裏は小さく「ほう」と漏らした。 「決まってる」 そして侮蔑するかのように吐き捨てた。 「俺が悪い奴だからだ」 「な!!」絶句するメティスに足裏は構わず続けた。 「俺はな、もうこんなちっぽけな人間でいることに耐えられないのさ。もっと崇高な存在になり上がりたいのだよ。そのために昔は随分とくだらない善行を積んできた。でも駄目だ。どれだけ善い事をしても超人になんてなれなかったよ。そんな折に神から啓示を受けた。『善なるものを滅ぼし悪なるものを栄えさせろ』とな」 語りながら興奮してきたのか足裏の顔が恍惚とした表情を浮かべ始めた。 「善悪に囚われているようじゃあだめだ。善悪の彼岸、そこを越えた先にこそ人間の目標地点はある。思うに俺は善行を積み過ぎた。だから未だに只の人間のまま断崖を前に足踏みしている。そこを超えるにはもっと前人未到の精神性に至る必要がある。それこそ如何なる悪徳にも後ろめたさを覚えることのない絶対なる無謬性をぉ。それによって俺は成れる。あの方のような『超人』にぃ!!」 「そんなくだらない理由で……」 愕然とするメティスを見下すように足裏は侮蔑の色の浮かべた。 「下らない?まあお馬鹿なお子様には理解できない難しい話だったかな……」 「よく、分かるさ」 メティスの纏う雰囲気に仄暗いものが混じり始めた。 「要するにお前は自分のくだらない情念の為に他人を踏み躙ろうとしているのだろう」 その奥に昏く粘ついた情念が宿った目でメティスは足裏を睨みつけた。その姿に朗らかで鷹揚とした少女の面影はない。 「お前のような奴を一人知っている。己の欲望の為に他人が殉じることを当然の権利と思っているような、最悪の人間を」 奥歯が音を立てた。 「だとしたら!!そんなことは絶対にさせない!!」 「お前は……正しいな。正義と言っても良いだろう。いいね。気に入った。踏みにじり甲斐がある」 彼は胸の前で十字を切った。 「嗚呼神よ、今宵も日ごとの糧を与えて下さったことを感謝いたします」 足裏はうっとりとしながらメティス達を見据えた。 「さて、何人残るのやら……。行くぞ?『剣戟乱刃』」 背中から凶器を無造作に抜き放つと足裏は全身から凄まじい殺気を放った。足裏はただ一人で兵士たちは悪意の群衆に囲まれたかのような錯覚に陥らせた。その場にいたものは皆、心臓を鷲掴みにされたかのような錯覚に陥った。 兵たちの間に動揺が広がりその身を強張らせた。生じた恐怖は反応を鈍化させる。その一瞬の隙に足裏は全力で跳躍し一気に兵士たちへと肉迫した。彼我の距離が一瞬で焼失し兵士たちからは足裏が消えたようにさえ見えた。 彼らが次に足裏の姿を知覚できたのは彼の振るう十字槍に喉を引き裂かれた瞬間だった。間合いを詰めた足裏は十字槍とキーンアックスを力任せに振り回し兵士たちを攪拌した。その一撃で十人は死んだ。マルコとわずかな兵たち、そしてメティスはかろうじてそれに反応し躱すと同時に飛びのいて間合いを取ったが殺戮はなおも続いた。 足裏はその場で足を広げ足の指に大地を掴む様に力を込めた。彼の足もとから罅が蜘蛛の巣状に石畳の上を広がって行った。 彼は風霊の剣の抜き放つと斬撃を風に乗せてマルコとメティスへと放射した。迫る斬撃にマルコは大剣を盾に防御した。一方メティスは懐から防御用の呪符を抜き打つと防壁を作りだした。 しかし反応できたのはその二人だけであとの兵士たちはそのままもろに斬撃を浴びてしまった。 血飛沫と斬り裂かれた装備品、そして人体の破片が飛び散り辺りは一瞬で屠殺場のような様相を呈した。 かつてズブラの街で一行と戦った際にはあのアルティナを以てしても切り札を使わねば生存できなかったほどの破壊力を持つ足裏の一撃を前に兵士たちは勿論、歴戦とはいえ並みの武官に過ぎないマルコすら耐えきることが出来ず膝を着いてしまった。しかしマルコは咄嗟に足裏の暴威を前に後ろに背負った大工達を庇い市民の被害者は出さなかった。 「なんて様だよ共和国。なんだよお前ら……。夜の錦って奴かぁ?こりゃあよう。弱すぎるぜお前ら、何のために来たんだよなぁあ」 戦士としての誇りを踏み躙るために足裏は殊更わざとらしく落胆を露わにした。屈辱からマルコたちは痛みつけられ戦闘不能の体のまま歯ぎしりした。 ただメティスだけは彼に食い下がった。 メティスとて足裏の一撃を受ければ到底立っていられない。だが彼女の特殊な巫術は通常の物より遥かに強力な防壁を作り出し足裏の攻撃の直撃を避けたのだった。 「まだです!!私はまだ戦える。ここにいる誰も!殺させやしない!!」 「ははは、勝てないって分かんだろ?その得物。まさに蟷螂の斧だな」 「できる、できないなんて関係ない!!」 メティスは山包丁を抜刀した。獲物を握るその手に力が籠り小さく震えた。 「ここでお前を倒す!!」 「無理だな」 足裏は長い舌を出して決意を露わにするメティスを嘲笑った。 「やれるものなら、やって、み、な」 メティスは裂帛の気合と共に山包丁を閃かせて斬りかかった。山包丁が彼女の意志に応える様に鉄の輝きを放ち、その威力と重量を増加させると共に鋼の属性を帯びた。だが彼女の斬撃は足裏が体を傾けただけで躱された。 「さっきのは呪符って奴か?そういやルーシアも似たような事やってたな?どれどれ、どんなもんかブチ破ってやるか」 足裏はアイアンナックルに持ち替えると腕を軽く振りかぶって殴り掛かった。迫りくる拳にメティスは死の気配を感じ、駆り立てられるように上位呪壁符を飛ばした。二人の間に生じた何重もの防壁が足裏の拳の前に立ちはだかった。 しかし彼の拳は障子戸でも破るように防壁を突き破った。 「ちっ。手ごたえがねぇ。所詮は巫術。弱者の技術だな」 防壁を全て打ち破った彼の拳はメティスの鼻先で止められた。 「……何のつもりッスか?」 メティスの頬を冷や汗が伝った。 「ん?ははは、こりゃあなぁ。雑魚ばっかで辟易している俺の気持ちの表れだ。そんな中、お前はちょっとばかし見込みがありそうだと思ってなぁ。それでちょっと玩んでみた訳だ」 「なっ!?ふざけ……」 言いかけたメティスの言葉が脇腹にめり込んだ足裏の爪先によって遮られた。そしてメティスは蹴り飛ばされてボールの様に地面を何度か弾みながら吹っ飛ばされた。 足裏は楽しそうに哄笑しながら倒れたメティスへと歩み寄って行き髪を掴んで引きずり起こした。 「でもゴメンなぁ。別に俺、強者との戦いを生き甲斐にするとかそういうタイプじゃないんだ。だからもしかして『この人私は見逃してくれるのか!?』とか期待したんなら悪かったな」 「だ、誰が、おめおめ一人……」 メティスの目を覗き込むと足裏は訳知り顔で嗤った。 「ハハハ。嘘吐くな。目ェ見りゃ分かる。利己的な本性をつまらない理性で抑圧しているって目ェしてるぜ。そういう顔付きってのは生まれつきだ。お前は本当はもっとずっと自分本位な人間だろう?」 「違う!!取り消せ!!私はお前らとは違う。己の欲望の為に他人を脅かすようなクズとは違う!!絶対に違う」 狼狽するメティスに足裏はますます愉快そうな顔になった。 「おいおい。そんなに取り乱したら、自分で肯定しているようなもんだぞ?」 哂う足裏とは対照に打ちひしがれ絶望したかのようにメティスの目から力が抜けていった。 「……確かに貴方の言う通りかも知れない……」 「はぁ?なんだよお前急に……」 不意に脇腹に鈍痛を覚えて足裏はメティスを取り落とした。脇腹目を向けるとそこには山包丁が突き刺さっていた。 一瞬、足裏は何が起きたのか分からなかった。しかし怜悧な刃物が突き刺さった伊豆口が灼熱するとようやく事情を呑み込めた。 自分は油断し、この娘に刺されたのだ、と。 メティスは何とか顔だけ起こし、ボロボロのまま不敵な笑みを浮かべた。 「とう……蟷…螂の……斧の、切れ味はどうですか?」 足裏は無表情のまま山包丁を引き抜き投げ捨てた。傷口からは血塊が零れると共に湯気が立ち上がり凄まじい速度で傷跡が再生していった。その光景にメティスは驚愕に目を大きく見開いた。 「そんな……再生、能力まで持っているなんて……」 起き上がる事も出来ないまま奥歯を噛み締めるメティスに足裏は目を向けた。 「おい」 その視線を受けてメティスの背筋に冷たい戦慄が走った。 「痛ぇじゃねえか」 足裏の、爬虫類のような無機質な目をしているその面からはあらゆる感情を窺い知ることは出来なかった。だがそれは、裡にうねる激情の量が表情の形で表現できる臨界点をはるかに超えている為であった。故にすぐに 「痛ぇじゃねえか……。テメェヤッパなんかで刺したら痛ぇだろうがこのメスガキがよぉ!!ガキの分際で俺を刺しやがったな!!糞ガキの癖によう、ああクソムカつくぜ、ムカつくんだよぉ、ムカつくゥぁぁああああ」 足裏は憤怒を爆発させて倒れているメティスを踏みつけた。蹲るメティスだったが、そもそも体格が違い過ぎる。防御の上から蹴られただけでも骨が軋み肉が傷んだ。メティスは呻き声を漏らしながらそれでも耐えた。 やがて落ち着いた足裏は未だに肩を荒く上下させながら再びメティスの髪を掴んで引きずり起こした。 「死ねよ。メスガキ」 メティスの下腹部に足裏の拳が突き刺さった。メティスの小柄な体は殴り飛ばされると紙屑のように宙を舞った。現実感のない光景だった。 しかしすぐにメティスが地面に落ちた音で現実感がその場に戻った。いやな音だった。大切なものが詰まった旅行鞄が地面に叩きつけられたような、もっと単純に言えば モノが壊れる音だった。 「や、やめろ!!もうやめろぉ!!」 風霊の剣の斬撃で倒されたメルコが腕を突っ張って何とか上体を起こしながら叫び声を上げた。 「相手は女の子で、まだ子供だぞ。そんないたぶるような真似をするなぁ。お前に誇りは無いのか!!もうやめてくれ!!」 ほとんど懇願するような声だった。 「ぁああん?誇りならあるさ。結構お高いの持ってたぜ?でも生憎、ちょっと前に二束三文で売っちまった。悪いな。空腹には勝てなかったんでなぁ。つーか、あの餓鬼がガンバった御蔭で僅かでも命脈を保ったお前が言っても冗談にもならねえ。それに女子供だからって手ぇ抜く方がよっぽど誇りのねえ戦いだろうが?」 空々しい正論を吐きながら足裏はマルコへ、その背後にある新政庁へと歩を進めた。 「それともあれか?『女の子のお腹を殴ると赤ちゃんが出来なくなっちゃう』とかそういうアレか?それなら心配するな」 地面に突き刺さった獲物を拾い上げながら舌を出し凄まじい笑みを浮かべた。 「全員ここで死ぬ」 そう言うと足裏は歩みを止めた。 「そうだ、せっかくだからあの餓鬼から殺すか」 いやらしい笑みでマルコを見下ろした。 「その方が悪逆非道っぽくていいよな」 「なっ、やめろぉ!!」 マルコの絶叫を背に受けた彼は刃を携えたままメティスへと向かいはたと足を止めた。 「来やがったか」 忌々しげに吐き捨てると同時にその場にゲオルギーが現れた。 「貴様、何をしている」 怒気を迸らせるその姿は鬼神の名に相違なく、気の弱い人間だったら失禁してしまいそうな迫力があった。 しかし相手はあの足裏だった。 「見て分かるだろ」 挑発するように表情を歪めた。 「なあゲオルギー、お前さ。『弱い者虐め』って好きか?」 ゲオルギーは少し考えた後律儀に答えた。 「するのは嫌いではないな」 その答えに足裏はワザとらしい位殊勝な顔で肩を竦めた。 「おいおい、それはいけないな。何事も体験してみないと正しい評価は下せない。どうだいゲオルギー、何なら今からちょっとされてみないか」 そして舌を出して醜く嗤った。 「俺が、お前にしてやるから。『弱い者虐め』をなぁ」 「さぁ」 ゲオルギーは得物を構えた。 「果たしてお前に出来るのかな?」 「やってやるよ」 足裏はそれだけ言うと雄叫びを上げた。シャウト効果によって肉体の上限を定めていた枷が外れ、潜在能力を全て発揮できるようになった。 彼は地面を蹴ってゲオルギーへと駆けた。一歩踏み出す毎に石畳が砕け、一蹴り毎に地面が爆発し石の破片と土くれが飛行機雲の様に尾を引いた。 一瞬で間合いを詰めた足裏は思い切り振りかぶってゲオルギーをぶん殴った。 咄嗟に武器を盾にして直撃を防いだが、重く鈍い衝撃がゲオルギーの体を突きぬけて行った。吹っ飛ばされそうになったがたたらを踏んで堪えたゲオルギーは小さく舌打ちした。 「……何故得物を抜かなかった」 「言っただろう?『弱い者虐め』だと、得物を使う必要が無い」 足裏は拳を素早く引き、構えなおしながら口の端を歪めた。 「ただちょっとお前を虐め殺してやるだけだ」 微かに上気した顔で鼻の穴を膨らませる足裏にゲオルギーは小さく鼻を鳴らして斧を振りかぶった。 「そうか」 そう吐き捨てると袈裟懸けに足裏に斬りかかった。 足裏は飛びのいて躱した。ニタニタという嘲りがその顔にへばりついている。 「ノロいなぁ……。そんなんじゃ駄目だぞ?虐められっ子」 「どうかな?」 ふてぶてしく肩を竦めるゲオルギーに足裏は怪訝そうに眉を顰めた。同時に彼の胸が浅く裂け血が噴き出した。 「やはり俺には『弱い者虐め』はする方が性に合っている」 「こんなかすり傷で増長してんじゃねぇよ」 足裏が軽く胸の筋肉に力を込めると傷口から湯気が立ち上がり急速に再生し始めた。 「し、ししょー」 ふと、ゲオルギーの脇から弱弱しい声が届いた。ゲオルギーが視線を寄越すとメティスが震える腕でもがきながら何とか上体を起こしていた。彼女は頭から血を流しており、目は焦点が合っていなかった。 「そ、そいつは再生能力を持っています。もっと一気にやらないと多分効果がありません。」 「そうか」 ゲオルギーが短く返すとメティスは強引に立ち上がろうとして、体勢を崩し再び倒れた。 「ししょう、申し訳ありません。ししょーのお役にたとうと思ったのですが不覚を取りました。でも大丈夫です、分かっています。こんな傷なんでもありません直ぐに立ち上がって戦線復帰します」 彼女は何度も立ち上がろうとしてその度に地面に倒れた。その姿に嗜虐心を刺激されたのか足裏は舌なめずりした。 「健気な、弟子だ。ああ言ってるんだ、肉盾ぐらいには使ってやれよ」 それを無視してゲオルギーはメティスへと歩み寄って行った。 傍らにゲオルギーが経つとメティスは瞳に焦燥の色を浮かべた。 「わ、分かっています。すぐに、すぐに立ちます。だから!!」 親に置き去りにされた子供のようにその姿は切迫し、どこか哀れさすら誘った。 ゲオルギーが掌をメティスの目線の上に持ち上げると、彼女はまるでこれから殴られるかのように目を瞑り歯を食いしばった。そんな彼女の頭の上にゲオルギーは掌を置いた。 「よくやった」 短く、ゲオルギーは弟子を褒めた。 師に褒められた弟子は理解できないかのように濡れた眼を見開いた。 「え?」 「後は師に任せろ」 穏やかな顔で頷かれるとメティスは腰を抜かしたようにへたり込んだ。 「……ありがとうございます…………ッス」 彼女は再び意識を失うとそのまま倒れ込んだ。 頭を強く打たないようにゲオルギーは頭を掌で支えるとそっと彼女を横たえると、距離を取り足裏と対峙した。 「舐めてやがるな」 足裏の纏う空気に剣呑さが増した。 「勘違いするなよ」 それを前にしてもゲオルギーは泰然としていた。 「イジメだと言っただろうが」 ミシリ、と二人を取り巻く空気が軋んだ。動けば噛み殺されそうな獰猛な緊張感が周囲を包み込んだ。 ゲオルギーと足裏、どちらも個人で軍団と渡り合える戦力を保持している二人である。しかし二人とも恐れは微塵もなかった。 「殺す」 先に足裏が動いた。 前言を翻し彼は確実に当てるためにクラッチクローで殴り掛かった。 先ほどと同じようにゲオルギーは武器を盾に受け止めようとした。その構えに足裏は内心で爆笑した。 なんと幼気なのだこのネヴァーフは。 そんな構えでこの俺の殴打を受け止める気だというのか? 良いだろう。 生来の巨大な骨格、常軌を逸した訓練、そして腕による人体改造。その総てを併せ持つ自分の全力ならばそんな鉄屑もろともに粉砕してやれるというのも分からんのか。 そんな傲慢さをゲオルギーの顔面へと叩きつけた。 しかし激突の刹那 二人の間に二つの光が迸った。 「何ッ!?」 「遅いぞ」 対する二人の反応は対照的だった。 足裏は驚愕し、ゲオルギーは微笑んだ。 「関係ねぇ」 構わずに足裏は拳を叩きつけた。 その拳の前にまず光の障壁が立ちはだかった。しかしそれは足裏にとっては大した障壁とはなりえない。事実彼は先ほどこの障壁よりもはるかに強固なメティスの符術を容易く打ち破った。多少は威力が減衰されるだろうがそれでも人の頭蓋骨を粉砕するには十分すぎる威力がある。 足裏が腰と肩を捻じ込むと障壁は飴細工の様に砕け散った。 しかしその拳の前に今度は魔力の糸が絡みついた。糸は空中で編み込まれると蜘蛛の巣状の盾となった。 硬度の高い物体は衝撃で砕ける。しかし糸で編まれた盾は決して砕けることは無い。 糸を引きちぎりながらも止まることなく足裏の拳はゲオルギーへと迫った。しかしそれはもう十分に減衰されており、ゲオルギーが斧で受けながら後ろに跳んで威力を殺すと大したダメージにはならなかった。 ゲオルギーが軽く埃を払っていると、その傍らに二人の男が現れた。 「お前が侵入者か……」 「貴様か、『足裏』!!」 スノウとオルフェンだった。更に―― 「全く、『耳目』といい本当に不愉快ですわね」 ルーシアも現れた。 「ハハハ、お揃いか」 女王の騎士団の内、四人が現れたというのに足裏は余裕の態度を崩さなかった。 「す、すまないオルフェン将軍……」 倒れていたマルコが体を起こし、忸怩たる表情でオルフェンへと詫びた。 「俺達は何もできなかった。一番食い下がったのは俺が疑っていたメティスだった。彼女の頑張りで俺は生き延びることが出来た。それなのに……」 慙愧の念に堪えられないように身を小さく震わせる彼にオルフェンは何も言わずに頷いた。後は任せろという目配せだった。 スノウが周囲を見渡すと生存者以上に足裏に蹂躙され命を奪われた犠牲者たちがそこかしこに転がっていた。怒りに奥歯を噛み絞めながらスノウは足裏へと向き直った。 「貴様ッ、手出ししないんじゃなかったのか。アルティナさんに誓ったんじゃなかったのか!!」 むなしい言葉である事は彼自身にも分かっていた。でも言わずにはいられなかった。 「ああ、あの誓い、約束か。勿論覚えているさ、忘れるものか……」 どこかさびしげな表情で足裏は答えた。 「ただ……」 しかし一行はそんな仕草一つで油断するほど青くはなかった。そんな様子に足裏は頭を振った。 「ただ、気が変わったんだ」 ゾッとするような悪意に満ちた表情だった。彼がどれだけ話し合おうとも決して分かり合うことが出来ない、それこそ悪魔のような人間の本性が露わになっていた。 もし善悪の観念に齟齬があるのならば話合えば和解できるだろう。しかし、そこが正常にも拘らず自ら望んで悪行を行うような人間に対してできることなど戦う以外にあり得るのだろうか。 「相変わらず、醜く、下衆で、聞くに堪えないですわね」 ルーシアが冷徹に彼を見据えた。 「ようルーシアちゃーん、会いたかったぜぇ。まあお前みたいな凡人には理解できないか。超人の道とは何人たりとも足を踏み入れたことのない前人未到の地なんだからな」 「そうですの。まあ興味もありませんわね。ですが足裏。貴方はご存じですの?」 ルーシアは鼻を鳴らした。 「何かを成すには須らく代償を払うべきですわ。貴方のその愚にもつかぬ狂気の果てに貴方は何かを失う覚悟は御有りですの?」 「はぁぁ?」 足裏は肩を竦めた。 「それは弱者の理屈だな。強者はそんな覚悟とは無縁の存在だ」 「そうですの。ですとお辛いですわよ」 女王の騎士団の四人は構え、呼応するように足裏も構えた。 「貴方はこれから迎えるわけですから、何一つ得る物のないただ失うだけの惨めな敗北を」 「さて、一人足りないようだが数も揃ったことだし、真面目に遊ぼうか」 醜く顔を歪ませながら足裏は背負った兇器を抜き放った。 古今あらゆる武術を極め、それ故にあらゆる武器を己の肉体の一部として扱うことが出来る技術、武芸百般。それがこの男の特性だった。 同じように武芸百般を修めたウルグ=ヴァーシャは身に着けた武器術と戦闘術を剣術へと収斂させることによって独自の戦闘術を編み出した。凡人が途方もない研鑽の果てたどり着く子が出来る武芸百般という境地を先天的な勘の良さと才能だけで使うことが出来るフーズル=バルバリアはそれを他者の手の内の看破に使った。 足裏と言う人物はその領域の力を以て多種多様な武器種の行使することを可能とした。 「さぁて、纏めてぶっ殺すかぁ」 彼が武器破壊の斧を抜いて一気に駆けた。しかしそれよりも早くルーシアが動いた。 先ず彼女は全員に神聖魔術を掛け全員の行動の精度を高めた。通常、神聖魔術による知覚補助は僅かな時間しか持続しないのだが、彼女が独自に編み出した特殊な技術によって彼女のそれは高い持続性を持っている。同時に彼女の指示で一行はスノウを間合いから外すことに成功した。 小さく舌打ちをしながら構わずに足裏は斧を振った。たとえスノウに当たらずとも武器攻撃が戦闘術の主力であるオルフェンとゲオルギーにさえ命中すれば十分すぎた。しかし、その目論見もルーシアは看破していた。 彼女は跳び上がりながらオルフェンとゲオルギーに全力で躱すように言った。彼らもそれに頷き反撃や防御を考えず全力で回避に専念した。 その結果、身のこなしに秀でたルーシアは勿論、オルフェンとゲオルギーも攻撃の回避に成功したのだった。 「何ィッ!!」 足裏の顔が驚愕に歪んだ。それもそのはず、彼の攻撃にミスは無かった。通常ならばルーシアとて躱すためには相当の集中を要するはずである。しかし一行は、女王の騎士団は運命を変える力を持っていた。その力を使い躱したのである。 しかし、その力を持たない足裏にとって目の前の現象は理解の埒外であり、それ故に彼に生じた動揺は深く、彼は飛来した脅威に反応すらできず吹っ飛ばされた。 そこにスノウの魔術である。吹っ飛ばされながら足裏は体を捻って体勢を立て直した。 「この糞がッ」 「みんなッ」 悪態を垂れる足裏を尻目にオルフェンが精神力を込めて神聖魔術で皆の攻撃力を強化した。直後、ゲオルギーが斧を振りかぶりながら足裏に踊りかかった。 奥歯が砕けんばかりに食いしばりながら足裏はゲオルギーの物と同じ斧を取り出すと盾として掲げた。 しかし相手はあのゲオルギーである。 そんなか弱い守りなど気休めにもならず足裏は袈裟懸けに斬りつけられた。 喉の奥から呻きが漏れ、傷口からは血が迸った。 しかし傷口は先ほどと同じようにすぐに再生してしまった。だが、足裏の息が乱れ、肩が上下していた。腕の人体改造による恩恵の一つ、代謝の異常な加速は肉体の損傷を速やかに回復させる。しかし代償として回復のたびに膨大な体力を奪ってゆく。 彼の回復力は無尽蔵ではない。 そのことをスノウが看破すると一行の彼への脅威がやや薄れた。その雰囲気を感じ取り足裏は苛立った。 「舐めんな舐めんな舐めんな、この糞カス共がぁッ。テメェらムカつくぜ。ムカつくぜムカつくぁあぁああッ!!」 その絶叫に大気が震え、ビリビリと一行の肌を打った。睨みつけてくるその視線は戦場の鴉を刺殺さんばかりの凄絶さで一行を突き刺した。放たれる怒気は殺意の怒涛となって一行に打ち寄せた。 しかし一行は何食わぬ顔でそれを受け止めた。それが足裏にはますます腹立たしかった。 彼は一種の天才だった。しかも体躯に恵まれ努力を惜しまぬ勤勉さも有していた。それ故に物心ついた時から自分よりも強い人間など見た事も無かった。勿論、腕のような例外は居たが、腕の場合は医者や研究者寄りの存在である彼とは住み分けができていた。 だから彼にとって相対する敵手は全て弱者であり、自らを恐れる獲物に過ぎなかった。だから彼は徐々に増長していった。実力に裏付けされた傲慢さ、それが彼の全てだった。 それが只の錯覚にすぎないと思い知らされたあの日までは。 自分と相対して何一つ取り乱したところが無い一行の姿があの男、『最強の枢機卿』と重なった。気が付くと首の後ろが微かに泡立っている。それが尚気に食わなかった。 これではまるで…… 「どうやら、間に合ったようね」 鈴の音のような澄んだ声と共に清廉とした風が吹き抜けた。 視線を向けるとそこに―― 「まあ期待はしていなかったけど、約束を破ったというのならもう容赦する必要はないわね」 ――聖火を携えた共和国の守護者が現れた。 戦線にアルティナまで加わったことによって戦力の天秤は一気に一行へと傾いた。ゲオルギーとスノウの攻撃力は如何に足裏と雖もそう何度も耐えきれるものではなく、それをルーシアの補助で何度も叩き込んだ。アルティナとオルフェンの堅固な防御を一撃で突破することは足裏を以てしても打ち破る事は出来なかった。 徐々に削れてゆく体力と募る焦りに彼の苛立ちは頂点に達した。 「あああああ、ウゼェウゼェウゼェ!!」 彼は怒気と共に凄まじい殺意の奔流を放った。彼の筋肉が膨張しその肉の隙間を埋める様に凶暴な力が満ちた。 「おっ死ね、糞共。『剣戟乱刃』」 共和国の兵士たちとマルコを一撃で戦闘不能に追い込んだ彼の奥義が放たれた。おもちゃ箱をひっくり返したように大量の刃物が飛来した。 しかしその攻撃からアルティナはスノウを除く全員を庇って見せた。そして離れたスノウの元へとオルフェンが駆けつけると彼を死の怒涛から庇って見せた。その姿に足裏は口の端を歪めた。 まずアルティナは彼女は自身の持つ絶対防御の構えにオルフェンとスノウの防御魔術を合わせることで大きなダメージを受けながらも見事に攻撃を受けきって見せた。その姿を目の当たりにしても足裏に動揺は無かった。 「テメエは後回しだぁッ。俺の狙いはぁ」 オルフェンの元にも刃の怒涛が押し寄せ土煙を巻き上げた。その中に彼の姿が消えると足裏は高笑いを響かせた。 「そっちのアルティナとは違い、オルフェンはもうすでに大分痛みつけてやった、そんな状態で俺様の奥義に堪えられるものかよ。ハッハッハ、防御の要を欠いて尚手負いのアルティナならいつでも仕留められる。形勢逆転だな」 勝ち誇り哄笑するその顔にルーシアが冷や水を被せた。 「形勢逆転、と言うことは劣勢だという自覚は御有りでしたのね」 舌打ちする足裏に鼻を鳴らした。 「まあそれはともかく、あの程度の児戯でオルフェンを倒したというのは勘違いも甚だしいですわね。彼は伊達にも『鋼鉄の男』そしてこの国の将軍様ですのよ」 「はぁあん?罅の入った鋼鉄なんていくらでもグチャグチャにしてやれるぜ」 一行はハアとため息を吐き肩を竦めた。 「それはどうですわね?」 足裏はその言葉を侮蔑的な表情で舌を出して哄笑した。しかし土煙が晴れ、その中からオルフェンが姿を現すと表情を凍りつかせた。 「なん……だと……!?」 奥歯が砕けんばかりに歯ぎしりしながらも彼はその理由に思い当たった。 「生命の……呪符か!?」 「そうだ」 短く答えながらオルフェンは杖術の構えを取り、足裏へと間合いを詰めていった。 「さて足裏」 冷たい、刺す様な視線で動揺と怒りと屈辱で顔を歪ませている足裏をルーシアは射抜いた。 「先ほども聞きましたが、その狂った魂には果たして惨めに失うだけの敗北を受け入れる覚悟は御有りで?」 脂汗を額に浮かべ足裏は後ずさった。 「ふ、ふざけんな。この俺様が、こんな鼻糞どもに……」 短く息を吐くとオルフェンは一気に肉迫し杖を振り上げた。ルーシアの補助によって精度を高められたその攻撃を躱すことは出来ずに足裏は右腕を折り曲げて杖と体の間にねじ込むのがやっとだった。 それは武芸を修めた者のとる行動とは思えない。死の恐怖に対する生物としての反射行動だった。 故にその防御は不十分で足裏はその身に深い傷を負うこととなった。 太いゴムを千切るような手ごたえを感じながらオルフェンが杖を振り抜くと、足裏は絶叫した。 オルフェンが飛びのいて間合いを取ると足裏の右腕は肘の辺りで千切れており傷口から夥しい量の出血をしていた。 「……お、俺の腕が」 やや蒼い顔で呆然としたまま呟くと、やがて彼の顔からスゥーと表情が感情の温度と共に消え失せていった。やがて彼が顔を上げるとそこには昆虫のような無機質な顔があった。 「流石にダメージが大きいな。遊び過ぎたか、今日のところは撤退しよう」 「逃がすと思うか」 じりじりと一行は間合いを詰めていった。 「楽勝だ」 足裏は左腕だけで器用に数本のクナイを投擲した。それは一行ではなく一行の後方で倒れているメティスやマルコたちを狙ったものだった。一行は素早く反応し彼らを護った。 その隙に足裏は跳躍し民家の屋根に乗った。 「逃げるのか!!」 思わずそう挑発しても彼は先ほどまでの檄した様子が嘘の様に落ち着き払った態度をしておりそれが返って不気味な雰囲気を醸し出していた。 「ああそうだ。これ以上やったら俺は負ける。だから逃げるんだ」 そう言い残すと彼は再び跳躍し姿を晦ませた。 ともあれ嵐は去った。 しかしその場にまだふらついた足取りの蒼い顔をしたジェイクが現れた。 「ウルグ=ヴァーシャの所在と目的を突き止めました」 「この火事や放たれた工作員たちは陽動です。私たちを都市防衛に釘付けにすることが彼の目的だったのです」 陽動と奇襲、フーズルの得意戦術である。 「そしてウルグ=ヴァーシャの狙いは恐らくこの町の地盤を発破して都市丸ごとを海に沈める事です」 プロキオンの地下には無数の空洞が存在する。実際にチュート達はその内の一つを臨時政庁として活用したくらいだ。 その中でも最大の物を内側から爆破し地盤の崩落を狙う、それがウルグの策であるという。 「ウルグ=ヴァーシャは嘗て僧兵院において『歯牙』の称号を授かっていたおり、フーズル=バルバリアとの決闘に敗れ恭順したという経歴は皆さんもご存じの通りです。当時の彼の得手は剣術、そして発破術だそうです」 第二次プロキオン防衛戦の最終局面、洋上のハイレディンでの決闘でもフーズルとの連携で爆薬を用いた即死技を放ってきた。尤も当時は仲間にその余波が及ばないようにかなり難儀していたのだが。 「そして、工作員の一人に現在の彼の所在を吐かせることに成功しました。この先の市民公園の管理小屋から入ることが出来る地下空洞の奥底で今彼は陰謀を巡らせています。皆さんは直ちにそれを阻止してください」 一息に言い終えると彼は口許押さえ、込み上げてくる嘔吐感を堪え、なんとか飲み込んだ。まだ、顔が蒼い。初めての殺人は未だに彼の心のなかで激流となってうねっている。 「……貴方、大丈夫なの」 アルティナが彼の身を案じ背中をさすると彼はそれを振り払った。強がりの引き攣った笑顔で何とかいつもと同じような調子を作った。 「さて、何のことです?貴方は何も見ていないでしょう?白昼夢にでも襲われましたか?」 「……そうね。貴方に対する懸念なんてない。そうだったわね」 アルティナは小さく頷いた。言葉尻を捉える余裕があるなら、ひとまずは大丈夫だろう。 「工作員を吐かせたとおっしゃりましたが、それは、貴方が?」 ルーシアに問われると彼は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。 「……企業、秘密です」 そう、とだけ返すと一行は地下空洞に潜むウルグを目指した。 公園の管理小屋の錆びた鉄扉を開くと黴臭い湿った空気が流れてきた。町の騒ぎとは裏腹に不気味に静まり返った暗闇に一行は臆することなく踏み込んで行った。燭台の類の物は全て壊されており仕方なくそのまま備え付けの階段を下って行った。 都市最大の地下空洞と言うだけあって石造りの階段は立派なもので五人で並んで歩くことが出来た。 やがて石造りの階段が終わり、土を成形しただけの地面になった。 床の硬度が変わったことで歩幅が変わり一瞬だけ体勢が崩れた。とはいえそんなものは隙と言う程のものではない。微かに重心がずれた程度、それも一瞬にも満たない時間である。 しかし、奇襲ならばその隙は千載一遇の好機と言えた。 「剣戟――……」 考えての行動ではなかった。 微かな空気の流れと白刃の如く研ぎ澄まされた殺気に一行は咄嗟に地面に倒れ込んだ。倒れ込みながら視界の端に逆さの人影と天井に一振りの剣が刺さっているのが入った。 「……――乱刃」 それと殆ど同時に一行の首があった空間を後ろから二振りの白刃が渦を巻くようにして凪いだ。斬撃の主は体を捻りながら器用に剣を握ったまま右手を地面に着くとそのまま片手の腕力だけで跳ね上がった。 ゴムまりの様に逆さの体勢のまま壁を蹴って今度は天井まで飛び上がった。体を捻りながら重力が無いかのように天井を左手と左膝で突いて再び壁まで跳ぶと、そのまま壁と壁とギザギザに飛び跳ねながら一行を追い抜くと一行の前に着地した。 軽業師のようなと言うかそれ以上、ほとんど蹴鞠やボールと言った無機物のような常軌を逸した身軽さと身体能力だった。 「ちぇっ、やっぱ楽じゃあねえな」 ようやく暗闇に目が慣れてきた一行の前に立ち舌打ちをした。 「……ウルグ、ヴァーシャ」 ウルグは腰に佩いた奇妙な鞘を撫でながら鋭利な視線で一行を睥睨した。 「……ここで話し合い、誤解を解くことは出来ませんか?」 「誤解?」 スノウの言葉に眉を顰めた。 「そうです。この戦争の発端、オスカル=アスクレピオスの死は本当に俺達の手によるものだと思っているのですか!?」 小さく鼻を鳴らした。 「さあ、そりゃフーズルやテジャドの野郎が考えるべき案件だ。オレにとっちゃ戦争の理由がどうとか、そんなのは知るか」 「では何故貴方はここにたった一人で立っていますの?」 ウルグのあんまりにもあんまりな言葉を聞いてもルーシアは落ち着いたままだった。 「分かっていますの?貴方方は団員総がかりで戦って敗走なさったんですわよ?仲間のいない、いわば前回よりもずっと不利な状況で私たちに勝つ気なんて、正気の沙汰じゃありませんわ」 「勘違いするなよ」 ウルグは口許を綻ばせた。 「仲間は確かにオレに力をくれる。空っぽだったオレがこうして戦うのはそれだけの理由をくれたあいつらのおかげだ。でもなあ、だからこそ使えない技がある。共に戦えば味方をも巻き込んでしまうような技がな。勘違いするなよ、俺もフーズルも一人の時の方が強い!!」 「それを聞いて安心しましたわ」 「安心?」 ウルグが怪訝そうにするとルーシアは静かに微笑んだ。 「負け惜しみを言いに化けて出られても困りますの」 「ハッ!!」 「ちょっと待って!!」 二人の間に闘争の空気が流れ始めて慌ててアルティナが口を挟んだ。 「戦争の理由が不当な物なら話合えば分かり合えるはず、こんな戦いに理由なんて……。それに、ラス・アルハゲの街で私たちは良き友人として付き合うことが出来た。ならこれから先、私達だけでなく自由都市同盟と共和国だって」 「理由ならあるさ」 ウルグは軽く構えた。纏う空気に混じる殺気がその濃度を増した。 「そりゃ、オレだってお前らの事は良い奴だと思っているよ。でも、お前らはフーズルの敵だ。ならそれはオレが取り除く。あの人の敵はこのオレが噛み砕く、もうこれ以上あの人に重荷を背負わせたりしない。」 浅く息を吐き、目を爛々と輝かせるその姿は野生の肉食獣を思わせる。 「オレにとってはそれが全てだ」 「貴方は、全てフーズルの言いなりですのね」 盲信に近いその感情を揶揄するようにルーシアが鼻を鳴らした。しかし何ら憚ることなくそれを肯定した。 「ああそうだ。あの人が、オレを人斬り包丁から人間にしてくれた!!だからあの日から、オレはあの人の『牙』!!」 右手を鞘のトリガーに添えた。 「フーズル=バルバリアの敵は、このウルグ=ヴァーシャが噛み砕く」 トリガーを引くと共に高らかに名乗った。 あの日に再び手に入れることが出来た、己の名を。 トリガーを引くとギミック付きの鞘から爆発音と共に大量の棒切れが射出された。よく見るとそれは棒切れではなく抜身の剣だった。 刃の雨は一行の元にも降り注いだ。しかしアルティナが矢面に立ちそれをスノウとオルフェンが補助すると殆ど無傷で凌ぐことが出来た。 しかし元々ウルグの狙いは攻撃ではなかった。スノウはそれを看破した。 放射された大量の刃物は地面に突き刺さり所狭しと乱立した。それは足の踏み場もないほどの密度だった。もし強引に移動すれば刃は容赦なく足を切り刻む。 「爆破斬術・白刃の林」 地面に突き刺さった剣の上に立ち、刺さった剣を抜いて構えながらウルグ=ヴァーシャは静かに言い放った。 地面に乱立する剣群は敵には罠となる、しかしウルグにとってそれはどこでも補充可能な利便性の高い武器であり、足場でもある。 確かに、足手まといがいては使えぬ技である。 「玩具一つで勝った気にならない事ですわね」 技術の概要をスノウから伝えられたルーシアは味方全体に符術を施した。一行の体は翼が生えたかのようにフワリと浮き上がった。これで白刃の林は一行を縛る枷ではなくなった。 「……ずっり」 ウルグに白い目を向けられるとルーシアは肩を竦めて見せた。同時に一行は散開した。スノウを後衛におき後は全員が前衛を張るシュヴァリエ・デュ・ヴァンの陣形である。 先ずはオルフェンとルーシアが機先を制して前衛全員に補助を掛けた。これで全員は潜在能力の全てを解き放った。しかしウルグは何一つ臆することなくむしろその闘気はますます勢いを増した。 「準備は出来たみてーだな。んじゃ行くぜ」 白刃の林の上を疾走しゲオルギーへと迫ると右腕の剣を振りかぶる。しかしそれを振り下しながら手から落とした。 「爆破斬術――……」 ゲオルギーは振り下される斬撃に反応して斧を振り上げて迎撃しようとした。しかしウルグは剣を落とすと地面に刺さった剣の柄を握った。 「……――曲斬り」 そのまま逆袈裟に抜き打った。 ゲオルギーの胸板から血が迸った。 「まだ行くぜぇ」 ウルグは跳躍すると体勢の崩れたゲオルギーへと左手に握った切っ先を差し向けた。たまらずスノウが補助魔術を飛ばした。しかしウルグの斬撃は魔力の糸に絡め取られながらも鋭く閃いた。 しかしその尖峰がゲオルギーの肉に食い込む刹那、アルティナが二人の間に割り込んだ。 「甘いわ」 鋼と鋼のすれ合う鈍い金属音と火花を散らしながらアルティナはゲオルギーに迫った凶刃を代わりに受けることに成功した。 小さく舌打ちするとウルグは飛び退きながら左足で地面に刺さった剣を掴んだ。 「まだまだ行くぜぇ!!爆破斬術・外連斬り!!!」 それを振り上げ三度ゲオルギーを狙った。通常では有り得ない地面から浮かび上がる軌道の斬撃、熟達者であるからこそ回避できない攻撃だった。 「また甘い!!」 今度はそこにオルフェンが割り込んだ。魔術の障壁を張り堅牢な鎧と併せることで不可避の斬撃を防御する彼の姿を見るとウルグは足を振り上げたまま頭を後ろに倒し、空中後ろ返りの要領で一回転した。その回転により振り上げる斬撃には体重が乗り重さが増した。 しかしオルフェンは油断なくそれを盾で正面からではなく斜めに受け流した。刃は鋼に食い込むことなく火花を散らしながら表面を引っ搔いて抜けた。 「やるな」 着地しながらウルグは舌打ちした。 「でもあっさり凌げたとか、思うなよ」 その言葉と同時にアルティナの手首の鎧の隙間から血が滴り落ちた。突如肩口に鋭い痛みが走り確かめるとそこに薄い裂傷が生じていた。 「……!!鎧の隙間を」 驚愕の言葉に微妙な表情で返した。 「生憎、オレは体躯、膂力には恵まれないんでね。その辺は技で補うことにしたのさ。フーズル風に言えば馬鹿なりの工夫って奴よ」 その言葉に一行は改めてウルグ=ヴァーシャを見た。背は低い。女性であるルーシアやアルティナよりも頭半分から一つ程度低いだろうか。線も細い。鍛錬を積んだことはその佇まいから窺い知ることは出来るが、それでもオルフェンやゲオルギーのような筋骨隆々の体躯は望むべくもない。 百人が見れば百人全員が美形だと断じる整った顔と首元まできっちりと着込んだ軍服調の洒落た衣服も合わさり、その姿は恐ろしい海賊の殺し屋の風情は微塵もない。むしろ若く美しい女形の役者の様であった。 しかし、その戦闘にはそぐわない肉体には途方もない修練の結果身に着けた戦力がいくつも潜んでいる。人間離れした身のこなし、独創性に溢れた独自の戦闘術、そして斬殺した人間の数に裏付けされた剣術。 才能の量で言えばウルグのそれは足裏の足元にも及ばないだろう。しかしその真に恐るべき所はどれだけ研ぎ澄まされた戦力を保有しようともそこに驕りは無く、その戦力は全てが同じ方向を剝き、敵を殺害するという方向で噛み合っている。 故に一行ははっきりと感じ取った。 ウルグ=ヴァーシャは間違いなく、足裏よりも強い。 「でも、なんでゲオルギーを狙いましたの?」 ルーシアの胸中に疑問が生じた。 「貴方の技とアクロバットじみた攻撃回数なら、アルティナさんやオルフェン、或いは私を狙って先ずは確実に数を減らしたほうが正解でなくて?それにあなた方もご存じでしょう?ゲオルギーを狙う、それが何を意味するか」 鬼神、ゲオルギー。彼は野生の獣と同じく手負いでこそ本領を発揮する。傷を負い、その怒りを解き放った彼の攻撃は嘗て如何なる敵をも屠ってきた。実際第二次プロキオン防衛戦ではその攻撃は赤髭海賊団撤退の一因ともなっている。 勿論その場に居合わせたウルグはそれを知悉している。 「そりゃ賢い理屈だな。オレは違う」 「どういうことですの?」 ウルグは口の端を歪めた。 「なんかをぶっ壊す時は真っ先に一番厄介な所をぶっ叩き割るのがオレのやり方だ」 頭が悪く、それ故にわかりやすい理屈だった。 「そう、後悔無さならないと宜しいのですが……」 「後悔なんてしねえよ」 小さく鼻を鳴らした。 「馬鹿だから」 再びウルグがゲオルギーへと躍りかかった。 言葉と違わずにその攻撃はゲオルギーに集中した。両手の剣と足を使った曲芸斬術。凄まじい速さと身のこなしで動くウルグはかつてないほどの攻撃回数で多彩な攻撃を仕掛けてきた。アルティナとオルフェンは幾度もその攻撃に割って入った。しかし鎧の隙間を狙うその攻撃はむしろ彼女らのような重装備にむしろ特効であり、なんとアルティナが生命の呪符を破壊されるまでに追い詰められてしまった。また途中で放った飛剣による奇襲は介入不能であり、その攻撃を直撃したスノウは防御魔術でダメージこそ軽傷に抑えたものの靴と地面とを爆破溶接されてしまい移動不能に陥った。 更にアルティナの突撃をウルグは地面の剣を手に持った剣で跳ね上げて盾にすることによって防ぐという芸当まで見せた。 ――爆破斬術。単独で戦う限り攻撃、妨害、防御、全ての要素が高いレベルで噛み合った恐るべき殺戮戦闘術であった。 しかし徐々にウルグの攻撃は多彩さを失い一行は戦況を巻き返して行った。 と言うのも爆破斬術とは全て白刃の林によって設置された大量の剣を使う技術なのである。そしてそのリソースを短期間で集中させることによって敵を圧倒するのがウルグの戦術だった。 今までその戦術は瞬く間に敵を葬ってきた。 しかし女王の騎士団は違った。十回近い斬撃を放っても得た戦果はアルティナの生命の呪符だけ。そこでウルグは自身の周りにある剣を使い切ってしまったのだ。 武器を失えばウルグは身軽な曲芸師に過ぎない。空間の大気を攪拌するかのようなスノウの大魔術、曙光纏いしオルフェンの杖術、そして怒りの炎を立ち昇らせるゲオルギーの猛攻にさらされて何度も吹っ飛ばされ意識を失いかけた。 しかし小柄で華奢なその体のどこにそんな力を秘めているのか、共和国が誇る騎士たちの猛攻に耐えきってしまった。 しかしルーシアの呪歌によって再びゲオルギーが攻撃の準備を行うとその隙を突き、反射的に飛びのいて距離を取った。 そこでウルグはハッとなった。 間違いなく、そこに保身は無く。その行動は失った剣を補充するための行為だった。新たな爆破斬術で一気に一行を殲滅する狙いがあった。しかし追い詰められていたことによりそこには焦りがあった。 飛び退いた後に気付いた。 ゲオルギーの隙を移動ではなく持っていた剣で暗殺者の広域攻撃を装甲の隙間を縫う技術に乗せて放てば、何人かは倒せたかも知れないということを。 自身の判断ミスでウルグは一瞬動きが止まった。そこにゲオルギーが襲い掛かり全力の一撃を放った。 攻撃は直撃しウルグは吹っ飛ばされた。そして倒れたまま動かなくなった。 「気にするな。お前が悪いわけじゃない」 ポステリオルで兄が連れ去られたことを聞かされた彼はそう言った。 お前は悪くないと。 悪いのは自分なのだと。 何よりも大切な家族が、誘拐されたというのに。 彼はオレを責めたりしなかった。 だが彼の言葉はどうであれ、その責任の一端は間違いなく、オレにあった。 思えば妙な話だった。 自由都市同盟が目障りで潰したいのなら、その頭を潰せばいい。自由都市同盟の指導者であり、思想的象徴であるオーリス=バルバリアを。 しかし『歯牙』に下された命令はその弟の排除だった。 そう、抹殺ではなく、排除である。 僧兵院の所有者ブラックウッドには『歯牙』の刃がフーズルに届かぬことを予測していたのだ。同時にフーズルの凄まじい戦闘力も。 そう言う意味で『歯牙』は十分すぎるほどに任務を達成した。理由はどうであれ、オーリスからフーズルを引き離したのだから。 後は簡単な話だった。 流れ者の難民に混じって僧兵院最強最悪の工作員『腕』がポステリオルへと紛れ込み、薬物と暗示で洗脳したならず者を使い町に火を放ち、その騒ぎに乗じて政庁を強襲。フーズルに留守を任されていたオルチ=ドーリアや赤髭海賊団などに『腕』の相手など務まるはずもなく、むしろ命があったのが不思議なくらいだった。 「早速だがウルグ、留守を頼む」 オレにそれだけ告げると彼はその場を立ち去ろうとしたので、慌てて呼び止めた。 「おい、あんたどうするつもりだよ」 「兄貴を助けに行く」 「待てよ!!」 フーズルのコートの背中を掴んだ。 「オレも行く。言ったはずだ!!あんたの敵はオレが砕く!!」 少し戸惑ったような顔をするフーズルにオレは構わず捲し立てた。 「聖堂十字会に乗り込むんだろ?元僧兵院のオレは道案内には最適な筈だ。あんたはオレを必要だって言ってくれたよな!!だったら嫌とは言わせねえぞ!!」 睨みつけてやると彼は息を吐き、頷いた。 「ああ、助かる」 そうしてオレ達は聖堂十字会領ボレアリスに乗り込み浚われたオーリスの奪還に向かった。だが思えばこの時からオレはフーズルの抱える危険性に気付いていたのかもしれない。 そこでオレは腕と対峙した。フーズルを先に行かせるための足止めとして。僧兵院最強。いくらフーズルといえども危険すぎる相手だと思った。しかし奴は端からやる気がないのか適当にオレをいなすとどこかに立ち去ってしまった。 その間にフーズルは護衛であった僧兵院『水月』もろともにオーリス抹殺の計画者であるブルスロフ卿という枢機卿を倒してオーリスの奪還に成功した。 だが、ブラックウッドの指示を受け拷問官を務めた『腕』によってオーリスはもう人間の姿をしていなかった。 そしてオーリスはポステリオルに帰って間もなく息を引き取り―― ――フーズルはあの嵐の船出を迎えた。 その日を境に、彼の生き方は変わってしまった。 そしてそれは紛れもなく、オレのせいだった。 「……死んでいませんよね」 ゲオルギーに吹っ飛ばされてピクリとも動かないウルグにスノウが思わずつぶやいた。一行はこの戦争がマグガフィンの陰謀であることを知っている。だから殲滅戦など行うつもりはなく、どこかで和解の落としどころを模索していた。 しかし身内の情に篤いフーズルの腹心であるウルグを殺害したとすればその道は途絶えるだろう。 ピクリと指先が動いたかと思うと、ウルグはゆっくりと立ち上がった。 「……なあどうするよ」 今にも泣きだしそうな声だった。 「自分を救ってくれた人が、自分のせいでその生き方を変えなきゃなんないハメになったらさ」 むせ返ると口許から血を流し、それを手の甲で乱暴に拭った。 「どうすりゃいいんだよ」 顔を上げるとその瞳が濡れていた。 「俺は、どうしたらいい。俺はあの人に何をしてやれるよ」 傷ついた体で、それでも想う物はただフーズルの事だった。 「支払えるもの。差し出せるもの。そんなものあるんならなんだって渡せるよ?心も体も、魂。でもあの人は優しいから、オレに何の贖いも求めないんだ……。変わっちまっても、身内には優しいままで、自分一人で戦って、戦って、戦いながら、少しずつ壊れていった……」 独白と共によろめきウルグは剣を杖に体を支えた。立ち上がれるはずなど無い。それでも立ち上がった。ただ、誓いがあるから。 「オレは何が出来る!!?どうしたらオレはあの人の人生に対して償うことが出来る!!」 血を吐くような思いで、ただ一つの、自分を人間に戻してくれた男に捧げた誓いを履行するために。 「せめてあの人との約束だけは必ず守る!!」 身体が揺れ、足元がふらつきながら、再びウルグは剣を構えた。 「フーズルの敵は、あの人を思い悩ませるものは、なんであれ、そこにどんな正義があっても、どんな手段を使ったって、オレが倒す!!」 強い目をしたウルグは腰に佩いた鞘に持っていたブレードを収め、手を掛けるとベルトを取り外しトリガーを引きながら放り投げた。 「フーズルの……役に立つんだ」 鞘は空中で爆発し、辺りに砕けた金属片を撒き散らすと共に爆炎で容赦なく周囲を焼き、仕掛けられた爆薬を誘爆させた。辺りは狂奔する衝撃波と荒れ狂う暴風に舐められた。しかし乱雑な手段での発破では辺りを振るわせるにとどまった。その後の地下空洞にウルグの姿はなかった。 手つかずの森林地帯の奥深くの山小屋で耳目は荒い息遣いと荒々しい足音に気付いた。 プロキオン近郊の潜伏地点に先に帰還した耳目は足裏が帰って来たのに気付き小屋の外に出ると息を呑んだ。 巨漢の足裏の、その利き腕が失われていたからだった。 「おい足裏、貴様その腕は……」 耳目の問いなど耳に入らないかのように、鬼の形相の足裏はぶつぶつと吐き捨てた。 「糞が、糞が、糞が、ちぃっと油断しちまった。無意識に手ぇ抜いちまった。それに連戦の疲労の所為だ。じゃなきゃ俺様があんな鼻くそどもに負けるわけがねぇ……」 その言葉で耳目は得心が行った。 足裏は女王の騎士団を襲撃し、そして敗れたのだと。欠損した右腕は逃げ帰るための代償なのだろう。 今まで自分を散々振り回していた足裏が手ひどい敗北に喫し逃げ帰ってきた。その事実に耳目は胸のすく思いだった。 先ほどルーシアを襲い『掌』、屍群縦示に手傷を負わされて自分も同じように逃げ帰ってきた鬱憤すらも彼の無様な姿を見ているとすぅっと消え失せていった。 「なんだ、お前負けたのか」 その為か掛ける言葉が自然と侮蔑するような声色になっていた。 唸るような声を上げると足裏は耳目を睨みつけた。そんな表情すら耳目には滑稽に見えた。いい気味だ、と思った。 「女王の騎士団を襲撃して負けて尻尾を巻いて逃げて来たんだろう?違うのか?」 「テメェ……」 耳目を睨みつける足裏の目は血走り怖い光を放っていた。しかし耳目はあんまりにも愉快なのでそれに気づかないまま哄笑した。 「これは愉快だ。貴様はかつてズブラで私に言ったな『女王の騎士団を侮るな』と、偉そうに。その貴様のその様は何だ?貴様こそ彼我の戦力差も計れない愚か者じゃないか?お前、口ほど強くも無いな、ああ可笑しい。こんなに笑ったのは久しぶりだ」 気のすむまで笑った耳目は小屋の戸を開けた。 「これで反省したらもう少しは考えて行動することだな。どれ小屋に入れ、消毒くらいは……」 言い終える前に耳目は吹っ飛ばされて木の幹に激突した。足裏が油断している無防備な耳目を蹴り飛ばしたのだ。背中を強く打ったために呼吸が止まりむせ返る耳目へと足裏は大股で歩み寄った。 「お前さ、何調子こいてんの?」 地面に腰を落としている耳目の顔の高さに足裏の脚が上がった。 顔面へ向けられた足裏の踏みつけを耳目は咄嗟に体を捻って躱した。 「何?お前?俺と対等のつもりなの?ハァ?お前みたいなクソカスが?」 刺すような殺気から自らの命の危険を感じた耳目は足裏へと顔を向けると息を吸った。音響線で脳を揺さぶり足裏を殺すためだ。しかし彼女が声を発するより先に足裏の左腕が耳目の細い首筋を掴んだ。 そのまま持ち上げられ木の幹に押さえつけられると息が出来なくなって苦痛に呻きながら耳目は身を捩った。 「血統でちょっと特殊能力持ってようがテメェなんぞ喉潰しゃあそれで終わるゴミクズだろうが」 そう言って足裏は口の端を歪ませた。 「ちょっと立場ってもんを分からせてやるよ」 そう言うと足裏は耳目を地面に倒すと両足の間に体を割り込ませた。 足裏が何をしようとしているのかを察した耳目は彼に組み敷かれながら必死になってもがいた。そんな彼女の抵抗を見下ろしながら足裏は残酷な喜びが腹の底から湧き出てくるのを感じ―― 「はーい、動かないで下さいね~。ずれると痛いですよ~」 音も気配も無く背後に忍び寄っていた男に右腕をなでられているのに気付いた。 咄嗟に足裏は右腕を振って男に殴りかかった。失ったはずの右腕で。 「あー、もしかしたらなんだけど」 振るわれた腕に手を添えて殴打を止めた男、腕は気だるげに言った。 「もし足裏君が傷を自戒や誓いの為に残しておきたかったんならすまなかった。不便だろうと思って勝手にファイシア族の霊薬を使って治療しちゃった。ほら、僕は神医だけど悪者だから、インフォームドコンセントなんてもう忘却の彼方なんだ。アレだったら自分でもぎ取ってくれ」 「腕!?」 足裏は立ち上がって己の右腕の付け根をなでた。そこには欠損する前そのままの己の腕が生えていた。 戒めから解き放たれた耳目は身を起こそうとしながらむせ返って急き込んだ。 「お前が、治したのか?いや、治したって言えんのかコレ?縫合なんて出来るわけもねぇし生えてきたわけでもない。斬られる前の状態をそのまま再現したような……」 冷や汗を垂らしながら胡乱げな視線を寄越す足裏に腕は肩を竦めた。 「うん。ああ礼なら不要だよ。だってホラ、僕たちは『仲間』じゃないか」 舌打ちしながらも納得した足裏に満足そうにウインクすると腕は起き上がろうとする耳目に手を差し出すがその手は払われてしまった。 「おいおい耳目よぅ。愛しの腕に随分つれないじゃないか」 揶揄するような足裏を無視して耳目は起き上がった。 「『腕ぁ、帰ってきてよぅ』」 足裏が耳目の声真似をすると彼女は舌打ちをした。 「……気の迷いだ」 そして睨みつけた。足裏ではなく腕を。 「本当に、気の迷いだ」 翌日、街は酷い有様だった。 砲撃で壊滅した町に立てた仮設住宅や施設は焼き払われ、街道も破壊されていた。 しかし市民たちはボロボロになった街並みにもめげずに復興作業を再開した。 「プロキオンは二度滅びた。そしてこれで三度。しかし何があっても、この町は何度でも立ち上がるよ。なぁメルテス……」 再び復興への道を歩き出した街にルシウスは目を細めた。 遠くの復興作業員に呼ばれ彼は駆けて行った。 その先で復興作業で木材を運んでいるおばちゃんが崩壊したにもかかわらずの町の活気に面喰っているスノウの背を叩いた。 「ほらほら、休んでる暇なんて無いよ。そりゃ御偉い政治家なら任期って終わりがあるし、騎士様なら敵を倒せばそれで終わりでしょうけどさ。市民の生活には終わりが無いんだから。休んだりへこたれたりしている暇はないよ」 一行は復興作業に再び従事し始めた。しかしその作業にメティスの姿は無かった。彼女はドナのいる野戦病院に入院していた。 あの後、一時的に意識を取り戻したもののまたすぐに昏倒してしまった。足裏から受けたダメージが大きい。だから万が一に備え彼女を入院させたのだった。 ゲオルギーは見舞いの為に一人野戦病院を訪ねた。 「メティス=アドラステアのお見舞い……ですよね?」 するとそこでジェイクが待ち構えていた。ゲオルギーが首肯すると彼は己に恥じ入るように俯いた。 「彼女の事はアルティナ=フレアライトに働きかけてなんとか追放する腹積もりだったんですけどね。だって怪しすぎるでしょう、よりによってこのタイミングでこの場所で。それに押しかけ弟子なんて聞いたこともない。理由にしたって雑すぎるでしょう。てっきり自由都市同盟のテジャドの手の物だと思ったんですけどね。どうやら私の見当違いのようです」 「そうなのか」 「ええ。それにもうどの面下げたら『メティス=アドラステアを追放しましょう』なんて言えるものですか?マルコ氏から話は聞きました。彼女は共和国の為に文字通りわが身を削って尽くした。あの恐ろしい足裏の暴力に立ち向かい続けるなんて、わたしには想像できませんよ」 彼は頭を乱暴に掻いた。 「どうにも私はすっかり心が汚れて誰の心もどす黒く汚れていると思い込んでいたようだ。タイミングや場所は只の偶然。そして理由は幼い彼女には他に思いつかなかったか、思いつけないほど追いつめられているのでしょうね。まあどれも憶測ですがね。はっきりしている事は彼女は彼女なりの正義の持ち主であるという事。そして命の尊さを知っているという事。それだけです。でもそれで十分です」 何度か頷いた彼の顔は穏やかな表情をしていた。 「で、弟子にしてあげるんですか?『騎士』ゲオルギー?」 「既に弟子だ」 「そうですか」 太い答えに満足そうに微笑むと彼は踵を返し立ち去って行った。 「そうそう、下種の勘ぐりついでに一つ」 立ち去り際にジェイクは指を立てて顔だけ振り返った。肩を挟んで敢えて軽い調子でメティスの闇の一端をゲオルギーに示唆した。 「恐らく彼女は幼少期に親に虐待されていた可能性がありますね。彼女、目線の高さに他人の手が上がると体を強張らせるでしょう?昔、縦示と孤児院に立ち寄った際に何人か同じような傷を抱えている子供を見ました。親に手を上げられた経験からくる心の傷ですね。それでも彼女は戦いの場ではその条件反射を表に出していません。意識の切り替えなのか、自己暗示の類なのか定かではありませんが、途方もない苦痛を伴う訓練の結果だということは想像に難くありません。全く、あの小さい体に何を背負っているんでしょうね?」 「何が言いたい?」 ゲオルギーが肩を竦めるとジェイクは首を回し肩越しに謎めいた笑みを浮かべた。 「優しくしておあげなさい?彼女は『子供』なのですから。あなたならそれが出来るでしょう?あなたは強い人なのだから」 「俺達は全員優しいさ」 ジェイクは振り返ると腕を胸の前で交差させた。 「いーえ。『貴方に』言っているんですよ。貴方が優しくしておあげよと」 ゲオルギーは思わず吹き出してしまった。 「そうか俺にいているのか」 「ええ、『貴方に』言っています」 ジェイクは繰り返し重ねた。いつかの言葉の意趣返しだった。 「あい分かった」 ゲオルギーは肩を揺らしながらジェイクを見据えた。 「意外だな。お前もそう言うことを言うのか」 「ええ」 人間の小さい事をしえなお彼は涼しげに微笑んだ。 「自分の底を舐めましたからね。限界を知った言動を心掛けることにしたのです」 ジェイクは肩を竦めて立ち去って行った。 メティスの病室に入ると彼女はベッドに大人しく横になっていた。ただ暇を持て余しているのか大きな瞳をくりくりと動かして落ち着かない様子だった。 彼女はゲオルギーを見つけるとばね仕掛けの様に上体を起こした。 「ししょー!!」 だが傷はまだ癒えないのか苦悶に表情を歪めた。 「落ち着け。傷はまだ痛むようだな」 「だいじょーぶッス。わたしのバアイはお腹いっぱい食べてぐっすり眠れば大抵の傷は治るッス」 鼻息を荒げる彼女にゲオルギーは穏やかな表情を務めた。 「それは何よりだ」 「あ、街の立て直しッスか?そっすよね。わたしもこんなとこでグースカ眠ってるバアイじゃないッス。すぐにお手伝いに行くッス!!」 とベッドから飛び起きようとするがやっぱり呻き声を上げて蹲った。 そこにドナが駆けつけてきた。 ゲオルギーはメティスをベッドに寝ているように言うとドナからメティスの様態を聞いた。それによると命には別条はないし、後遺症の類も一切残らないという。しかし打撲や骨折、内出血はそれこそ体中に刻まれているし、それ以外のダメージも大きく、今はとにかく絶対安静だという。 しかしメティスは唇をとがらせて自分はもう大丈夫だから行くのだとドナと口論を始める。 「いいからもう二三日は絶対安静。君はどれだけやられたと思っているの?」 「もうダイジョブッス。治ったッス。だから行くッス!!」 小さく笑みを零しながらゲオルギーは上体を起こしたメティスの肩を掴み強引にベットに寝かしつけた。 「良いから休め」 「でもししょー!!」 「俺の指導は手緩くないぞ。だから精々体調を万全に戻しておけ。何かを教え託すのに俺は手加減できんからな」 その言葉にメティスは最初目を丸くした。だがすぐに表情を輝かせた。 「それじゃあ……」 「ああ」 ゲオルギーは手をメティスの頭に置いた。一瞬、メティスの目に怯えの色が浮かび、彼女は身を強張らせたが敢えて無視した。そのまま軽く髪をかき混ぜた。 「よくやった。我が弟子よ」 そう言われると彼女はえへへとくすぐったそうに表情を緩めた。小鳥が親鳥の胸に抱かれている時のような何の不安も無い、安心しきった顔だった。 数日後一行が復興作業を行っているとゼグドに呼ばれた。 「おーい!!チュートの野郎!!目を覚ましたぞ!!」 共和国宰相代理チュート=リー=アルは襲撃以来意識を失ったままだった。彼はメティスとは違い、肉体的なダメージは一切負っていない。にもかかわらず昏睡状態から覚めなかった。 「ただなぁ。医者のドナさんが言うには昏睡状態から目覚めた患者にはよくある事なんだそうだが、あの野郎ちょっと記憶喪失みたいでなぁ、少しは落ち着いたんだがどうも様子がおかしいんだ」 その言葉に嫌な予感を覚えながら一行は医務室に駆け付けた。 医務室ではチュートは周囲の医師たちに普段の彼とは思えないほど高圧的に状況を問い詰めていた。彼は一行に気付くと刃物のような鋭い視線を差し向けてきた。 「恰好から察するに貴様らがここの責任者か?ならば状況と現在地について報告しろ。もたもたするな手短に、だ。俺を誰だと思っている」 普段の彼は決して立場を盾に相手を恫喝するような真似をする男ではなかった。やはり何らかの異常が起きている。 「私たちは女王陛下の騎士。貴方はこの国の宰相代理を務める御方」 代表してアルティナが答えると彼は怪訝そうに眉を顰めた。 「女王?ならばここは共和国なのだな。貴様ら、女王の騎士と言ったな、名を名乗れ」 横柄な口ぶりを訝しがりながらも一行は各々名乗った。 「私は女王の騎士、そして共和国の防諜総括、アルティナ=フレアライト」 「俺は魔術師のスノウドロップ」 「俺は将軍のオルフェン=ヴァール」 「私は薬師をしていますルーメリア=“ファイシア”ヘイシスと申しますわ」 ルーシアが名乗ると彼は微かに息を呑んだ。 「ルーメリア……ヘイシス……?」 「ルーメリア=“ファイシア”ヘイシスですわよ」 別に一族の称号に愛着など持ってはいないが、間違って覚えられても嫌なのでルーシアは何気なく彼の呟きを訂正した。すると彼は口許に手を当て口ごもるように何度か答え、ゲオルギーを促した。 「俺はゲオルギーだ」 「そうか」 短く答えると彼は少し考え込んだ。 やがて何かを閃いたようにためらいがちに口を開くと探るように自分の名前を確認し始めた。 「チュート、チュート=リー=アル。そう私はチュート。チュートだ。なるほど、それで相違ないな……。いや」 指で丸眼鏡の位置を直すと今度は口調もいつもと同じように整えた。 「私は宰相代理のチュート=リー=アル。それで間違っていないかな?」 内心怪訝さを覚えながらも一行が頷くと彼は一行の名前を確認し始めた。 「お前……君がアルティナ=フレアライト」 「……はい」 「君がスノウドロップ」 「ええ」 「君がオルフェン=ヴァール」 「ああ」 「君が……」 何度か頷きながら顔を上げると順番に一行の名を呼び上げた。何故かルーシアの名を呼んだ後だけほんの一瞬痛みを堪えるような表情をした。 「ルーメリア=ヘイシス」 「“ファイシア”ですわよ」 「あ、ああ。すまない」 ルーシアが訂正すると小さく首を上下させた。 「そして貴方がゲオルギーさんですか」 「おう」 何故か敬語だった。 全員の名を確認した後、再び沈思黙考し記憶の中に沈んで行った。 やがて彼は顔を上げるといつもの彼と同じように戻っていた。ただ 「迷惑をかけたね。少し混乱していたようだ。少し働き過ぎだな。今後は少し気を付けることにするよ」 「チュートさん。大丈夫なのですか?」 その顔には湖面を思わせる深く穏やかな微笑みが張り付いていた。 「――ああ、全て思い出したよ」
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登録日:2010/10/16(土) 16 58 25 更新日:2023/04/04 Tue 01 51 01NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 ARPG DS KONAMI アイアンフェザー ゲーム コナミ ニンテンドーDS マイナー マイナーじゃなくてどマイナー 不遇の名作 王道RPG アイアンフェザーとは2006年に発売されたニンテンドーDSのアクションRPGである。 かなりマイナーなゲームであるがプレイした人の評価はなかなか良い。 テレビでの宣伝活動は全く行われておらず、雑誌などで少ししか宣伝されていないためどうしたってくらい売上が伸びなかった。 登場人物の約半数は中高年であるのではないかと思われる。 ほんとに子供向け? しかし女性キャラは美人揃い。 以下ネタバレを含む。 STORY 漆黒のなかに瞬く星々。星座の数々も宝石を思わせる趣を見せていた。 その中でも、ひときわ大きく明るい輝きを見せている星があった。 その星には火花のような尾がついていた。 彗星……。 七色のアイアンフェザーの持ち主フライは村一番のアイアンフェザー使いを決める大会で優勝した後にやってきた謎の男ワイズに自分が二千年に一度起きる大カタストロフ「ジェネシス」止められる5人アイアンフェザー使いの一人だと告げられる。 祖父ウイングの影響で冒険に憧れを抱いていたフライは世界を救う旅に出るのであった… 用語 アイアンフェザー 作中の説明によると純粋な魂の結晶だとされる。 適性のある人間が使うと武器に変形させることができる(仮面などの装飾品もある)。 二つのアイアンフェザーが融合し新たな能力が発動するフュージョンモードがある。 ジェネシス 二千年に一度彗星によってもたらされる大カタストロフ。七色のアイアンフェザー使い5人が紅蓮の黄昏山で儀式を行うと阻止できると伝えられている。 二千年前は阻止出来ず一度世界が滅んだ。 進行するにつれて天変地異が起き、モンスターや機械兵が凶暴になる。 モンスター RPGではお約束の存在。行く手を阻む。 機械兵 その名の通り機械の兵士。やたらに硬くて手強い。 「機械王」が支配している。 「機竜兵」と「機人兵」という種類もある。 ノースタニア フライの産まれ故郷。国民は呑気でおおらかな性格。 国王に放浪癖がある。 イースタニア ラウの産まれ故郷。かなりの軍事国家。貴族と海兵が税金を食い物にして威張り散らしている。 ウエスタニア ワッチの産まれ故郷。国民は明るく祭り大好き。 サウスタニア イルの産まれ故郷。機械兵の産地。 登場人物 【仲間】 フライ 主人公。ワイズとともに旅に出る。13歳。武器は剣。この剣は悪い心だけをきるらしい。 ワッチ 職業はカウボーイらしい。だが本作に牛など出ない。フライに命を救われフライの仲間になる。武器はハンマー。 イル 仲間の紅一点。古代の技術を調べている。ツンデレかつブラコン。幼少期の可愛さは異常。武器は魔法銃。フュージョンモードで巨大な翼を出せる。 ラウ 義賊「七色盗賊団」のボス。ヒューリという偽名で関所の隊長もしているイケメン。本作きっての衣装持ち。武器は弓矢(またはボウガン)。 ワイズ 旅のガイド役。アイアンフェザーが使えないが、アイアンフェザーの声が聞けるらしい。敵になるフラグを見事に折った。 ウイング フライの祖父で冒険王。イルにセクハラをしたけしからんジジイ。クーアのせいで死ぬ。死亡した後アイアンフェザーがフライと融合する。 武器はランス。 【ノースタニア】 ホワイト フライの幼なじみ。気が強い。アイテム屋を営んでいる。 コーチィ 村一番のアイアンフェザー使いを決める大会でフライと闘った。クソ弱い。武器は大剣。 フライの母親 美人。いい母親。以上。 フライの父親 なんか頼りない。以上。 フライの祖母 いいおばあちゃん。フライの旅立ちを後押しする。 大臣 ノースタニアの大臣。かなり渋い。政治を一人でやってる相当のキレ者。 メーテル 騎士団長。銀河鉄道とは無関係。長い三つ編みをマフラーの様にしている。美人。 王妃 どう見ても黒柳徹子。シマガメが大好き。 船長 イースタニア行きの船の船長。海のモンスターに困っている。二つの意味で太っ腹。 【イースタニア】 ボーロ 労働者の爺さん。貴族に不満がある。 ジール ボーロの孫娘。かなりかわいい。ラウとフラグが立つ。 チーボウ 護衛隊長。でも絶対弱い。道具屋の息子らしい。本名は不明。 イシワール デブ。かなりの無能。実はクーアに洗脳されていた。徐々にマシになっていく。 大臣 こいつも無能。以上。 イスタール 先代国王。一代でイースタニアを強国にした凄い人。既に死去している。渋い。 リュウ 七色盗賊団の一人。自称「豪腕のリュウ」。武器はグローブ(?)。 レツ 七色盗賊団の一人。自称「俊足のレツ」。武器は腕に付けるカッターみたいの。 ルイ 七色盗賊団の一人。自称「縄抜けのルイ」。武器は鞭。 ロウ 七色盗賊団の一人。自称「鍵外しのロウ」。武器は盾。 伝説の四騎士 四人の老騎士。国家転覆を企むが断念。武器が妙にゴツい。 【ウエスタニア】 クーロ 先史教会の司祭。モンスターを操るギア・クリスタルの片割れを所持している。クーアに嵌められてモンスターと相打ちに…。 クーア クーロの弟。ギア・クリスタルで世界征服を企むがフライ達に阻止され地下宮殿で死亡。ざまあWWW ステイツ 国王。クーアに洗脳されたあげく毒を盛られたが助かった。渋い。 村長 ワッチの村の村長。いい人。 サブアの村長 デブ。情報をくれる。 タマニアの村長 地下宮殿に関するヒントをくれる。 タマニア村の村長の孫娘 きょぬー。ワッチとフラグが立つ。 ナンテ 騎士団長。おしゃべりジジイ。死亡フラグをへし折る。武器は斧。 リフト 青騎士。シールの兄。王子なのか単なる騎士かは不明。武器はパルチザン。 シール 赤騎士。リフトの妹。たまにくだけた喋りかたになる。 【サウスタニア】 ピード イルの兄。幼いイルを守るため機械兵に深手を負わされる。 その後「機人兵」に改造され古代遺跡でフライ達に挑んでくる。武器はブーメラン機能をもつカッター。 サウスタニア王 いざという時のために避難経路を作っておくなどかなりのキレ者。渋い。 マーキナ 古代の機械を研究している。フライに古代呪文「オプナ」「スタナ」を教える。瞬間移動装置でフライ達をイースタニアに移動させる。 ジェノスタ 機械王。元はジェネシス回避プログラムの一部だったらしい。 ラフォーマ ジェノスタの真の姿。ジェネシス回避の際のエネルギーでトランスフォーム! 全体攻撃の威力が鬼。 【その他】 二千年前の勇者 一人でジェネシス回避をしようとして失敗する。武器をただの剣から七色の双剣に卍☆解できる。 ディテリオ 騎士風の格好をした人物。何者なのか全く説明されない。アクセサリーを作ってくれる。 エピローグ なんやかんやでジェネシスを回避したフライ達は、ずれた星の軌道を修正するために星の裏側に旅立つのであった… 追記修正お願いいたします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 学年誌で漫画あったからかろうじて覚えてた -- 名無しさん (2013-11-21 20 29 06) 同じく学年誌の漫画で そこそこ長く続いて完結したやつと別の作者で短めの作品の2パターンがあった気がする -- 名無しさん (2017-02-08 22 00 09) 名前 コメント
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ジェネシス(永久の女神 イワナガヒメ軸) デッキ紹介・戦術など ジェネシス(永久の女神 イワナガヒメ軸) 主なカードキーカード サポートカード トリガー構成 デッキレシピ このデッキの弱点と対抗策 コメント 外部リンク 主なカード +... キーカード サポートカード トリガー構成 デッキレシピ G ユニット 枚数 備考 0 戦巫女 タマヨリヒメ 1 FV 戦巫女 ククリヒメ 4 バンデット・ダニー 4 スパーク・コック 4 大鍋の魔女 ローリエ 4 1 戦巫女 ミヒカリヒメ 4 戦巫女 タツタヒメ 3 猫の魔女 クミン 4 挺身の女神 クシナダ 4 2 戦巫女 イヅナヒメ 4 戦巫女 サホヒメ 3 箒の魔女 キャラウェイ 3 3 英知の守り手 メーティス 4 永久の女神 イワナガヒメ 4 このデッキの弱点と対抗策 コメント デッキの編集議論に。雑談をする場合などは共有掲示板をご利用ください。 これヒミコ軸とほぼ同じだろ -- 2013-02-16 16 21 14 ↑それは言わない約束…… -- 2013-03-26 22 11 27 アルテミスはデッキがなくなるからこっちの方が強い。 -- 2013-04-07 16 18 45 ブレイクライドの後にイワナガヒメのリミットブレイクも使うのは難しそう。 -- 2013-04-13 18 31 35 ↑しまった、「難」の後+か -- 2013-04-13 18 36 04 コメント すべてのコメントを見る 外部リンク カードファイト!! ヴァンガード Wiki カードファイト!! ヴァンガード 共有掲示板
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MSK-008 ディジェ 性能 COST EXP SIZE HP EN 攻 防 機 移 宇 空 地 水上 水中 SFS 防御 41200 650 M 12500 126 220 220 225 6 - - A - C ○ - 武装 名前 射程 威力 EN MP 属性 命中 CRI 武装効果 使用適性 対応適性 備考 宇 空 地 水上 水中 宇 空 地 水上 水中 ビーム・ナギナタ 1~1 3400 14 0 BEAM格闘 85% 10% ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ビーム・ライフル 2~4 3700 16 0 BEAM射撃 80% 0% ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 半減 クレイ・バズーカ 3~5 4200 22 0 物理射撃 70% 0% ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ アビリティ 名前 効果 備考 なし 開発元 開発元 4 リック・ディアス【レッドカラー】 4 リック・ディアス 4 シュツルム・ディアス 設計元 設計元A 設計元B 設計不可 開発先 開発先A 開発先B 開発先C 開発先D 2 リック・ディアス 2 リック・ディアス【レッドカラー】 3 シュツルム・ディアス 3 ガンダムMk-III 捕獲可能ステージ ステージ 出現詳細 なし GETゲージ ステージ 出現詳細 なし クエスト No. クエスト名 達成条件 該当クエスト無し 備考 登場作品『機動戦士Ζガンダム』 カラバの試作MS。 ゲルググ顔でナギナタ装備とジオン色が強いが、プロフィールにもある通りこう見えてもアムロの機体である。 開発元は多いが、リック・ディアス→リック・ディアス【レッドカラー】→シュツルム・ディアス→ディジェという順序で開発するのが効率的。 性能的にはリック・ディアスを陸戦用にして性能向上したような機体。 武装の種類はサーベル・ライフル・バズーカと基本は抑えてある。リック・ディアスのものよりPowが一部向上している代わりに消費ENも少々増している。 開発先はガンダムMk-IIIがお勧め。
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レクイエム内部 前作でいうジェネシス内部にあたる場所だがステージとしては全く別物。 実際のイメージは、どちらかというとZ時代のコロニーレーザー内部に近い。 が、真ん中の丘などはそれともまた違ったものなので、完全な新ステージとして捉えるべきか。 円形をした狭いステージで、中心に発射口の窪みがありそのまわりに細い柱が何本か立っている。 中心が小高い丘のようになっており、その高さに阻まれ開幕ドラグーンなどは当たらない。 段差が無く、ステップや地上滑走タイプのBD等でも中心部に行ける。行きさえすれば高度を取れる。 見た目より結構な高さがあるのでアッシュやドムトルーパーには若干やりやすいステージかもしれない。 コロニー内部なので汎用機、地上専用機、宇宙専用機が全て登場する。そして重力が地上の0.8倍である。 ジェネシス同様狭いステージの上、隠れる場所も少ない為、ミーティアが出ると非常にキツイ。 その上、ミーティアが2体同時に出ることも珍しくないので、いくらミーティアの性能が 下がったとはいえ非常につらい。又、2体は出ないにしても2対3の戦いの為、どちらにせよ 非常にやっかい。中級者でもこのステージで詰むことはそんなに珍しくない。 確実にミーティアを落とそう。
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ニュートロンスタンピーダー 核分裂を急速に促し、効果範囲内に存在する核爆弾を強制的に破壊する兵器。 Nジャマーと同じく、中性子を活性化させているらしいという以外の詳細な原理は不明である。 原作ではZ.A.F.T.のナスカ級戦艦に装着され、地球連合軍艦隊とウィンダム(ミサイル)へ発動された。 しかし映像ではジェネシスに似ていた為に、放送当時はミニジェネシスとも誤解された。 人間に対しては些細な違和感を覚えさせる程度であったようだ。もっとも、気付いたときには核爆発に巻き込まれている訳だが。 劇中では試作品一つしか登場せず、しかも一発こっきりの博打であった。 ニーベルングに次いで視聴者から忘れられている兵器であろう。
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効果 アビリティホルダー 派遣 解説 効果 Lv CAP 効果 備考 - 50000 敵のMPが少ないほど、敵に与えるダメージが増加する アビリティホルダー シナリオ名 所有者 難易度 Lv 備考 平和な時代のために ヴァルダー・ファーキル HELL - 暗黒の破壊将軍とどちらか 未来のために アリー・アル・サーシェス HELL - 傭兵とどちらか 派遣 派遣名 Lv 備考 国連軍基地武力介入援護 - 解説 効果の詳細は「自分と敵のMPの差に応じて、敵の防御を割合で減少させてダメージを計算する」というもの。武装効果の「貫通」とは効力を合算して計算するが、防御を0として計算できる防御力無視とは組み合わせても無意味。 効果の特性上、高難易度ほど影響度が高い。逆に格下ほど影響度が落ちることを意味するが、そういった相手は効果を受けなくても楽勝なのでさほど気にする必要は無い。 ジェネシスの同名アビリティと比べると交戦時のMP減少効果が失われているが、効果の条件が「自分のMP-相手のMP」となったことで爆発的に実用性が増した。相手のMPが200(初期値)でもこちらのMPが高ければ機能するため、ガンダムマイスターや激情、MPアップと組み合わせるとステージの序盤から本領を発揮できる。無論、鉄華団の悪魔や完全平和主義、MPダメージで敵のMPを下げれば更に効果は安定する。 固定ホルダーからの入手はHELLモードの終盤ステージになるが、7時間半派遣やEXTRA難易度のランダム枠から入手可能。そこそこのレベルと機体を揃えないと安定入手とはいかないが、逆に言えばこれが手に入るようになれば一気に戦力を拡充できる。汎用性に対して効果幅がかなり高く、特に高難易度ならパイロット全員に習得させても損が無い優良スキル。 強力すぎるためかインフェルノモードでは効果が調整され、HELL以下ほど強力な効果は得にくくなった。それでもインフェルノの過剰なまでの性能を持つ相手と戦っていくには必須級に近い。
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テレキネシス(Telekinesis) (アメコミ用語) 概要 超能力の一種。略して「T.K.」。念力、念動力のこと。使用者は「テレキネス(Telekines)」「テレキネティクス(Telekinetics)」とも呼ばれる。 手足、身体やロボットアーム、触手等を使わず意志や思考、精神によって物体を動かしたりする能力。 アメコミにおいては掌をエネルギーを発生させる方向・物体に向ける仕草で使用するものが多く、その際何らかの色を伴ったオーラもよく描かれる。日本ではよく似たサイコキネシス(Psychokinesis)(*1)という言葉も良く使われるが、アメコミではテレキネシスの方が多い。 基本的に対象から距離を置いた状態で使用するが、自分の肉体や接触している物体にしか影響を及ぼせないタクティル・テレキネシス(Tactile telekinesis)の使用者も存在する。 代表的な使用方法は 自身あるいは複数の人物をまとめての浮遊・飛行 バリア(シールド、フォースフィールド)の発生 物体を投擲しての攻撃 発生させたエネルギーによる直接攻撃 自身の肉体の強化 等が挙げられるが、使い手によっては傷の縫合や埃や水分などを操作しての幻影の発生なども可能である。 アメコミ@wiki